米大リーグ、ア・リーグの本塁打王を最後まで争い、投手としても9勝を挙げたエンゼルスの大谷翔平選手。周囲の想像をはるかに超えるレベルで投打の二刀流を実現させた。原動力はどこにあったのか。筑波大の准教授で野球コーチング論を研究する川村卓さん(51)に分析してもらった。川村さんは首都大学野球リーグに属する筑波大野球部の監督を務める。その解説から、大谷が持つパワーに加え、計画的につくり上げた体の柔らかさ、それを生かせる極めて高い技術が見えてくる。(時事通信福岡支社編集部 鎌野智樹)
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大谷は今季、46本塁打を放ち、100打点を稼いだ。打撃フォームで特徴的なのが、バットを下から振り上げる動き。打球に高い角度がつき、川村さんは「ボールをすくい上げられることが、本塁打が増えた要因。オールスター戦くらいまで、非常に機能していた」とみる。シーズン序盤は低めの球をスタンドに運んでいたが、決して簡単にできることではないという。「重たいバットを振る時に重力に逆らうことになるので、相当な力がいる」。193センチ、102キロの体格は他の大リーガーに引けを取らない。打つだけでなく、26盗塁を決めた。「あれだけ大柄でありながら、体がよく動く」。優れた機能性を併せ持つがゆえに可能な打撃だ。一般的に日本人選手は、他のメジャーリーガーと比べ背中や尻周り、太もも裏の筋肉が弱いとされる。農耕民族がルーツの日本人は、例えば田植えなどをする際に膝を深く曲げる必要があり、骨盤が後ろ側へ傾いているという。これに対し、狩猟民族系とされる人々は「速く走るため、長く走るための筋肉が発達していく」と川村さん。そのため骨盤が前傾し、尻などに多くの筋肉が付いている。生活様式が変わった現代でも、その名残があるという。
◇「振り上げて、点で捉える」高度なスイング
大谷は頭をほとんど動かさずに体重移動し、のけぞるような体勢になることで球を下から捉えている。他の日本人選手が同じように、頭を後ろに残す打ち方をすると失敗しやすく、「後ろが支えられない。腰砕けになってはいけない」。大谷は尻周りなどの筋肉が発達しているため、「最後にグッと支えられる」。2019年に手術を受けた左膝の古傷が癒えたことも大きかった。
大谷の打撃フォームを可能とさせているのは、力強さだけではない。振り上げるスイングでは、球を捉えるポイントが小さくなる。投手が投げた球は普通、4度から7度落ちながら打者へ向かってくる。この軌道に沿うようにバットをほぼ水平に走らせるのが「バッティングの王道」だ。大谷のように大きく振り上げると、「線ではなく点で捉えるようになる。それをやるのは、すごく難しい」と川村さんは強調する。「振り始めで素早くバットを出せるようにして、なおかつスイングスピードを上げていく難しい技術が必要」
大リーグでプレーを始めた18年には、多くの日本人選手と同じように、水平にバットを出していた。体重移動と同時に頭も前へと動く。そこから変化を遂げ、「ホームランを中心に考えたバッティングにしたようだ」。現代の大リーグでは、打率よりもOPS(出塁率と長打率の合計)などで打者を評価することが多い。川村さんは、大谷が確実性よりも長打力を求めていった結果として、今のフォームにたどり着いたとみている。
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