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震災の記憶、映像は忘れない

「傍」の意味

 「自分でもいいタイトルだなと思う」と珍しく自賛する伊勢さんは、「傍観者の傍でもあるんですよね」と言う。自分は当事者ではない、当事者の気持ちは、結局は分からない、何を撮ればいいのかも分からない、分かった気にはなりたくない…。自制であり自戒であり、言い換えればある種のコンプレックス。

 過剰な音楽やナレーションを排し、対象に深く迫ることも抑えて、ただただ「傍」にいる。今回に限らず、それが伊勢さんの作品であり、未曾有の大震災を前にしても変わらなかった。

 違ったのは一つ、製作期間だった。最初はとりとめもなく、いつ映画にするとも決めないまま撮影を始め、何年もかけて作品にしていくのが伊勢さんの映画作り。仲間内では「できちゃった映画」と呼ばれているそうだが、今回は「悲しみを忘れられない人たちがいる。同時に、人間は忘れるようにもできている。でも、映像は忘れない。映像にして、繰り返し流していくことだと思うんです」と、撮影開始から1年足らずで編集した。

 自主上映を含む上映会の開催希望を待っている。問い合わせは「いせフィルム」(03-3406-9455)まで。

 伊勢 真一(いせ・しんいち)
 ドキュメンタリー映画監督。てんかんと知的障害を持った少女とその家族を撮り続けた「奈緒ちゃん」で95年毎日コンクール記録映画賞グランプリ。「えんとこ」「ありがとう」「タイマグラばあちゃん」などの作品を製作し、「風のかたち」で09年文化庁映画賞記録映画優秀賞、「大丈夫。」で11年キネマ旬報ベスト・テン作品賞文化映画第1位。著書に「カントクのつぶやき」。
東京都出身、63歳。

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