町内の墓地には、真新しい墓が目立った。壊れた自宅よりも先に、亡くなった肉親のために墓を建てた人が多いという。
両親を亡くし、墓石に「ありがとう」と刻んだ娘。きょうだいの墓に、好物だったせんべいをありったけ供える年配の男性。いつもの伊勢映画と同じく、カメラの横から遠慮がちに話しかける伊勢さんに、人々が静かに口を開く。ようやく漁を再開した港や舟の上では、漁師が「俺たちは海へ来るしかできねえもの」とつぶやいた。
カメラは、福島県飯舘村にも入った。福島第1原発の事故以来、計画的避難区域になっているこの村を、離れられずに住んでいる友人がいる。彼女は、自然に囲まれたこの土地を「ここは天国」と愛した夫を、数年前に病で失った。放射能に汚染されている森へカメラを案内し、沢でサンショウウオの子どもを手のひらに乗せて「かわいい~。ここを離れられないのが分かりますでしょ」と笑う。
「仕事や場所に対して、自分にはこれしかないんだ、ここしかないんだという人たちがいる」と伊勢さん。これから徐々にでも復興が進み、放射能の危険も分かっていても、忘れられない人、離れられない人の「傍」に寄り添うカメラ。作中で苫米地さんが歌う「満月」は、数年前に作った曲だが、「君は泣いてるだろうか 僕は泣けるようになったよ」の一節に、被災地の時間の流れ方が重なる。
新着
会員限定