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震災の記憶、映像は忘れない

月命日の「読み上げ」

 自らも現地へ入り、撮影が始まった。といっても、初めは支援物資を届けるのが主な目的のような感じで「撮影に行くこと自体、慎重になる部分もあったし。いったい何を撮るんだろうかと」戸惑いが先立った。

 間もなく、苫米地さんと連れ合いの吉田圭さん、その仲間たちが町内にライフライン情報などを伝える「FMあおぞら」を開局する。撮影スタッフは、苫米地さん家族の「非日常的な日常」を通して、東京でテレビを見ていたのでは分からない、被災地の空気や時間の動きをカメラに記憶させるところから始めた。

 「FMあおぞら」では、月命日の11日が来るたびに、町内で亡くなった人たちの名前と年齢を全て読み上げることにした。幼い子、高校生、老夫婦…。地域と氏名と年齢だけなのに、それぞれに言いようのない重みがある。読み手の苫米地さんたちが、声を詰まらせながら一人一人、ゆっくり読み上げる場面が何度も出てくる。

 「何の意味がある、思い出すだけじゃないかという人もいたけど、マスメディア的な、何人という数字ではなくて、一人一人のことに戻していく、時間を進めないということ。人の気持ちはすぐに前へ向くものじゃない。失った肉親や友達のことを思い続ける人の時間に寄り添うのも一つの定点じゃないかと」

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