インタビューに応じる田中秀征・元新党さきがけ代表代行=東京都千代田区【時事通信社】
-法案が成立したとして、その後の展開はどうなるか。
事実上棚上げされる、凍結される形になっていくのではないか。この法案は、目に見える直接の利害を国民にもたらさないから、一般の人たちはあまり関心がなかったが、勉強がどんどん進み、「とんでもない法案だ」という認識が広がっている。次の国政選挙を経て葬られる可能性がある。だから、慌てて「第三者機関」をつくるという話が出ているが、本当に独立性を持ったものでないのならつくる意味はない。原発事故で「人災」をもたらした原子力安全・保安院以下のものになってしまう。
「第三者機関」は設置時期も問題となる。法律の施行後につくるというのでは、審判が来ないうちに野球を始めるのと一緒。監督でも投手でもチームの人間が勝手に審判役を務めるという話だから。そんなおかしな理屈は通らない。
-与党は、修正合意した日本維新の会を置き去りにする形で、衆院通過を強行した。
反対世論が盛り上がってくる前に、通しちゃえということだろう。賛成バスは、みんなの党が乗り込むと、維新の乗車を待たずに、それを振り払うように発車した。そういう印象だ。
-運転手の安倍首相は不本意だったのでは。
バスの運転手は官僚組織。安倍首相は車掌さんだ。車掌さんは多分、維新も乗せたいと思っていたのだろうが、野党の「プラス1」が確保されたから、もう待っていられないとなったんだろう。
-かつての自民党なら、もっと慎重論が沸き起こっていたと思うが。
多くの役所OBが派閥領袖(りょうしゅう)や有力者として配置されており、以前の自民党から大きく変わった。彼らは霞が関の主張に沿って命懸けでやる。洗脳とまでは言わないが、省益を代弁する大臣経験者も少なくない。衆院が小選挙区制になって、公認を得たい候補者が自由に物が言えなくなり、党の幅が狭まった。小選挙区制の行き着いた先と言える。
-公務員制度改革などで「官僚主導」打破を目指したみんなの党は賛成に回った。
今回の対応は、今までの主張と明らかに矛盾する。期待していただけに、極めて残念だ。でも、みんなからは井出庸生氏ら3人が棄権・反対した。彼らの行動はよく分かる。政界の若手も捨てたものじゃない。ああいう政治家が3、4人出てくれば日本の政治は一気に変わると思う。
-公明党には自民党へのブレーキ役としての期待もあったが。
第三者機関の問題では、主張を譲らずやってほしい。ただ、消費税の軽減税率も含めて、どれを実現する代わりにどれを譲ると(自民党と)取引を考えているようにも見える。それは国民には通用しないということをかみしめてほしい
田中秀征氏(たなか・しゅうせい) 長野県生まれ。73歳。東大文、北大法卒。1983年衆院選で初当選。93年に自民党を離党し、武村正義氏らと新党さきがけを結成、代表代行に。細川政権で首相特別補佐、橋本政権で経済企画庁長官を歴任。96年の落選後も、一般の人を対象とした「民権塾」を主宰、テレビ、雑誌などで発言を続ける。福山大客員教授。著書に「判断力と決断力」「舵を切れ」など。
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