インタビューに応じる古賀茂明氏【時事通信社】
-敗因は何か。
都知事選とはいえ、安倍政権への支持が強固な中で行われたことが一つ。安倍さん(晋三首相)のお蔭で円安・株高になり儲かっているのに、細川・小泉連合はそんなことよりも脱原発が大事だと言っているという見方があった。細川さんは安倍批判勢力には魅力的だっただろうが、一般の支持がどーっと集まる地合いではなかった。舛添人気に負けたわけではない。
最大の要因は、細川氏は『原発ワンイシュー候補』だという宣伝が行われたことだ。原発を最重要課題に掲げて、ゼロか否かを問う選挙にしようとはしたけど、それは原発以外はやらないという意味ではない。それなのに、マスコミのキャンペーンもあり、細川・小泉陣営は『原発オンリー』『景気・雇用・福祉は無視』とのイメージがつくられ、結果に大きく響いた。『あの人にやらせたら、自分たちの雇用や福祉は一体どうなるのか』という錯覚に陥った人が少なくなかったのではないか。
細川さんの街頭演説には、単なるエンターテインメントで集まっていた人もいた。(小泉純一郎元首相の)追っかけもいて、ライブのノリで盛り上がるという…。ただし、聴衆は圧倒的に中高年。いくら、1回の街宣で2000~3000人集めたと言っても、20回やっても4万人。都民全体から見れば、数も広がりも微々たるものだ。
-戦術も迷走したようだが。
勝手連的に動きが始まり、最初はうまくいっていたが、途中から民主党が入ってきて混乱した。彼らは、脱原発をただのエネルギー政策と位置付け、それと切り離して福祉などを訴えようとしたため、脱原発が矮小(わいしょう)化されてしまった。ネット選挙もできず、若年層にも浸透できなかった。
-安倍政権は、脱原発候補の敗北で原発再稼働に突き進むのか。
舛添要一氏が負けていたとしても、再稼働は動かなかったと思う。それが安倍首相の信念だし、自民党の体質でもある。『原子力ムラ』との関係を絶つわけにはいかないので、どっち道そっちに行っていただろう。
-細川氏が訴えた「脱原発で経済成長」の意味は。
「原発即ゼロ」は、単なるエネルギー政策でなく、成長戦略でもある。歴史的に見ても、エネルギーを支配した国が世界の覇権を握っている。蒸気機関の発明・石炭革命でイギリスが覇権を握り、メジャーが石油・ガスを支配してアメリカが覇権を握った。次の覇権も新しいエネルギーを支配した国が握るということを見越して、ドイツは政府が自然エネルギー移行の方針を決め、米英も企業レベルでは脱原発に舵を切っている。欧米の企業が自然エネルギーに猛然とシフトしているのに、日本だけが原発に回帰しようとしている。
これから日本は何で成長していくのか。今、競争力を持つ産業は自動車しかない。そういう中で、これから飛躍的に伸びる自然エネルギー産業に集中投資して勝負する。それによって雇用と所得を生み、福祉にもお金を回す循環をつくっていくという考え方。鉄とコンクリートで自然を破壊する大量生産・大量消費型の成長の仕方から、脱原発で環境を維持しながら、生活水準も落とさない新しい生き方だ。ただ、そこが都民にきちんと伝わらなかった。(続く)
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