インタビューに応じる作家の半藤一利氏【時事通信社】
国民の懸念が広がる中、集団的自衛権行使のための解釈改憲に突き進む安倍晋三首相。作家の半藤一利さん(84)の目には、今の日本と太平洋戦争へと至った戦前の様子が重なって見える。「昭和史の語り部」に、歴史からくみ取れる教訓を聞いた。
-特定秘密保護法、集団的自衛権をめぐる解釈改憲など、安倍政権下で日本の進路に関わる政策が次々と打ち出されている。
安倍さんは「国家のかたち」を変えるための三本の矢を用意したんだと思う。第一の矢は、(改憲発議の要件を緩める)96条を改めての憲法改正。しかし、これは国民の総スカンを食ってできなかった。そこで第二の矢が特定秘密保護法。これで安倍さんは言論の自由に対する縛りを握った。第三の矢が解釈改憲で、これが実現すると、憲法9条が完全に空洞化されることになる。
軍国主義へとひた走った昭和の時代でも、軍機保護法という法律で、権力者はまずメディアを抑え、国民が自由に発言できなくなる方向に持っていった。ああ、昭和のまね、昭和に学んでいるなと思いましたね。
-秘密保護法でメディアが沈黙すると?
(安倍政権は)なにもメディアを弾圧しようなどとは思っていない。秘密保護法を厳しく適用するという脅しをかける。あるいは、たった1人の記者を不当な取材という法律違反で引っ掛ける。それだけで昭和でもそうだったように、メディアは自制し萎縮してしまう。それが権力者が望んでいること。戦前と同じ構図です。
-歴史には、状況が引き返せなくなる「ノー・リターン・ポイント」がある、と著書で指摘しているが。
公明党が自民党に屈して解釈改憲となったら、次に安倍さんは、自衛隊を軍隊にするための法律を出してくるでしょう。自衛隊法改め国防軍法。そこまでいけば、ノー・リターン・ポイント。それで戦争ができる「普通の国」になる。
-なにゆえ首相は解釈改憲に前のめりなのか。
なぜそんなに急いでいるのか、私も不思議でしょうがない。憲法を変えたい人たちに、何か強い妄想があるのか…。ただ、憲法改正という本丸を見せずに最初はデフレ脱却に取り組み、国民の警戒心を解き、そして一の矢、二の矢、三の矢と段階を踏んで急速に進めてきた。安倍さんの周りにいる知恵者が、相当研究しているのは間違いない。私たちは、油断しすぎたのかもしれない(続く)
バックナンバー
「国民の景色、首相に見えず」 山尾志桜里氏
(16/04/14)野党再編どう進める? 江田憲司氏
(16/01/06)南シナ海で警戒監視活動を 長島昭久氏
(15/11/13)「イスラム国」の宣伝に利用された 小池百合子氏
(15/03/03)自衛隊の中東紛争介入を懸念 山崎拓氏
(15/02/27)けんかできる知事選べ 大田昌秀氏
(14/11/13)移設停滞なら同盟に傷 森本敏氏
(14/11/10)ガイドライン見直し先行は国会軽視 長島昭久氏
(14/10/29)集団的自衛権、日米で中国抑止狙う 守屋武昌氏
(14/07/30)経団連、献金関与の再開検討 中村芳夫氏
(14/07/01)目前に「引き返せぬ地点」 半藤一利氏
(14/06/26)解釈改憲「将来に禍根残す」 山崎拓氏
(14/05/15)脱原発へ、うねり広げる 細川護熙氏
(14/04/25)「小泉頼み、やめた方がいい」 古賀茂明氏
(14/02/17)都知事選は細川、小泉氏「最後の仕事」 田中秀征氏
(14/01/21)秘密法案「官権政治」強める 田中秀征氏
(13/12/09)集団的自衛権行使、慎重な議論を 山口那津男氏
(13/10/04)対北朝鮮「安倍政権のセンス疑う」 山崎拓氏
(13/07/12)新着
会員限定