ノルディックスキー伝統のジャンプ週間で、ニューヒーローが誕生した。2019年1月6日、年末年始の4試合を争ったビッグイベント最終戦のビショフスホーフェン(オーストリア)大会。会場を埋めた1万5000人の大歓声が響きわたった。
その中心にいる小林陵侑(土屋ホーム)は、総合優勝を決めて誇らしげに夜空を仰いでほえた。ジャンプを愛する欧州の観衆も、日本の若武者に拍手を惜しまない。22歳の勝者は、スキーを始めた5歳の時から背中を追った兄の潤志郎(雪印メグミルク)と同学年の中村直幹(東海大)の肩に担がれた。右手にスキー板を持ち、左の拳は強く握って。所属先で監督を兼任する大ベテランの葛西紀明もすぐそばで祝福。雪が舞う中で「師弟」が長く抱き合う姿は、ドラマのワンシーンのようだった。【時事通信社ロンドン特派員 長谷部良太】
◇W杯初優勝からの快進撃
岩手県八幡平市出身の小林陵は18年11月のワールドカップ(W杯)個人第1戦で初の表彰台となる3位に入り、第2戦で初優勝。その後も調子を落とすことなく勝利を重ねていった。ファンの興奮が最高潮に達したのがジャンプ週間だった。
ジャンプ週間はW杯を兼ねて行われ、ドイツとオーストリアで開催される4連戦計8回の飛躍の合計得点で総合王者が決まる。歴史は古く、W杯が始まる30年近く前の1953年から実施されている権威ある大会。本場の観客はホットワインやソーセージを手にしながら、お祭り気分で盛り上がる。観客数は例年10万人を超え、今回も10万9400人が訪れた。
選手なら誰もが憧れるのがジャンプ週間総合優勝のタイトル。五輪や世界選手権の金メダル以上の価値を置く者もいるほどだ。日本選手では長野五輪シーズンの97~98年に船木和喜が初戦から3連勝し、過去に日本選手でただ一人の総合優勝を果たした。W杯7戦4勝でジャンプ週間に臨んだ小林陵は総合優勝の大本命に挙げられ、開幕前の記者会見に呼ばれた。会場には200人ほどの報道陣が集まり、テレビカメラもずらり。「あまりプレッシャーは感じていない。目標はやっぱり総合1位だけど、楽しんでいいジャンプができればいいと思う」。珍しく日本選手が大きな注目を浴び、現役時代に船木とともにW杯メンバーだった宮平秀治ヘッドコーチ(HC)は「今までなかったこと」と驚いていた。
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