ラグビーの2019年ワールドカップ(W杯)日本大会まで1年を切った。初の8強入りを目指して強化に励んでいる日本代表のうち、リーチマイケル主将(東芝)ら半数近くは前回2015年W杯イングランド大会の経験者。この大会で日本は優勝候補南アフリカからの大金星を含む3勝を挙げ、世界中のファンやメディアを驚かせた。代表だけではなく、日本選手や関係者に「やればできる」という自信を植え付けた。
取材した筆者にとっても、南アフリカ戦は最も忘れられない試合。取材ノートをひっくり返し、改めて振り返ってみた。【運動部・鈴木雄大】
大会開幕の3日前、9月15日に英国入り。
日本の初戦、南アフリカ戦が行われるブライトンは雨だった。試合中もこの天気なら、ハンドリングに影響が出る。展開ラグビーを武器にする日本には不利だ。
世界的名将のエディー・ジョーンズを指揮官に迎え、順調に強化を重ねてきた日本。期待値は過去のW杯でも最高だろう。それだけに、いいコンディションでやらせてあげたい。
9月16日。きょうも天気が悪い。日本の宿舎で代表選手数人を取材。ウエートトレーニングをする部屋の壁には、南ア選手の顔写真に特長や弱点を書かれた紙が貼ってあった。高まる緊迫感の中にあっても、選手の表情は澄み切っている。SH田中史朗(パナソニック)は「見違えるようないいチームになった。前回大会より自信がある」。チームの仕上がりは上々のようだ。
9月17日。南ア戦のメンバーが発表された。順当に主力を先発起用。ジョーンズ・ヘッドコーチ(HC)は「ベストの23人。サプライズを起こしたい」と自信満々。世界最強と言われる南アのスクラムに挑むフッカーの堀江翔太(パナソニック)は「押せるんとちゃいますか。それくらいスクラムは突き詰めてきたし、自信はある」と言い切った。
練習後、ラグビーに詳しくない同僚のカメラマンが質問してきた。「日本が南アに勝つ可能性はありますか?」
ジョーンズHCも選手も「勝てる」と言っているが、本心はどうか。W杯で優勝2度の強豪。体格の大きさは世界トップ。メディアやファンの中でも、24年間もW杯で勝利のない日本が勝つと思っている人は皆無だった。ジョーンズHCと選手にしても、南アと競った試合をすることで次のスコットランド戦に向けて勢いがつけばいい、というのが本音のはずだ。
カメラマンの問いには、「サッカーの日本代表がW杯で優勝するより、可能性は低い」と答えた。後に自分の鑑識眼のなさを痛感することになった。
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