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〔ルポ〕五輪の街リオの貧困地域~見えぬ希望~

足りない汚水処理能力

 より深刻なのは、し尿など家庭の生活排水が直接、川に流れ込んでいることだ。ジルソンさんは「うちは洗濯機の水と雨水だけ流しているが、向こうはトイレの水だと思うよ」と並びの家々を指さした。

 露天商のジェラルドさん(61)は「神様に任せるしかない。この地域には下水道が整っていないからね」と諦め切った表情だった。

 河口付近までタクシーで向かった。一段と広くなった川幅が、グアナバラ湾が近いことを示していた。橋の上から下流を眺めると、ごみが散乱し、悪臭が漂い、汚れ具合は先ほど見た上流と何ら変わらない。川岸に人家が見えた。話を聞きに行こうとしたら、アシスさんに「あそこはコムニダージだから危ない。ピストルを持っている人もいる」と制止された。

 行政の対応を聞こうとカシアスの役所に電話したが、あちこちたらい回しされた揚げ句、上下水道を担当するリオデジャネイロ州政府の関連会社に問い合わせると、メールで回答がきた。それによると、昨年2月に大型の下水処理施設を稼働させ、現在は1秒間に750リットルの汚水を処理している。それでも処理能力が足りないため、さらに2カ所に同様の施設を建設中だという。

 しかし、現実に今も生活排水が直接パブナ川に流れている。これについては「あの地域は家が勝手につくられ、無秩序に拡大している。不正に占領された土地や非合法に設置された下水管がたくさんある」と、住民に責任を転嫁するような主張を展開。それ以上の説明は得られなかった。

 専門家はどう見ているのか。グアナバラ湾を挟んだリオデジャネイロ市の対岸、ニテロイ市にある民間の研究機関「グアナバラ湾研究所」を訪ねた。

 研究員のアレシャンドレさんは「汚染の一番の原因は家庭から出る排水とごみです。下水やごみの処理施設が不足しているため、雨が降って川の水量が増えると、問題はより深刻になる」と語った。

 さらに「州政府は湾に流れ込む主要な川の河口に網を張り、浮遊するごみを取り除いている」と説明したが、「どれだけ改善したか言うことは難しい」という。

 アレシャンドレさんは「水質汚染は周囲に住んでいる人たちの(劣悪な)生活状況を反映している。簡単な問題ではない。改善計画は長期的視野に立った連邦政府レベルのものでなくてはならない」と指摘し、国が貧困解消に力を入れるよう訴えた。

 同僚の研究員、アダウリさんは「役所の財政が厳しいことが背景にあるのは確か。しかし、ほとんどの政治家は、下水道を地道に整備するより、市民の目に見えること、票になることばかりやりたがる」と行政の対応を批判する。

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