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〔ルポ〕五輪の街リオの貧困地域~見えぬ希望~

五輪脅かす不衛生

 コムニダージを出ると、廃墟と化したアパートが並んでいた。アシムさんによると、役所が貧しい人たちのために建設を始めたが、麻薬組織のリーダーが中止を求めて妨害したため、工事途中で放棄されたという。別の場所にある団地も何らかの理由で建設が中断していたが、内部を周辺の人たちが不法占拠し、暮らしているのが分かった。

 「ここはジカン、ここはプライニャ…」。次から次へとコムニダージが現れる。極貧の状態に置かれた人たちを行政はどう考えているのか。「役所はカネを持っているが、住民のためではなく、自分自身のために使う。エゴイストばかりだ」とアシムさんは語気を強めた。

 バイシャーダにはびこる貧困は、世界最大のスポーツの祭典をも脅かしている。この地域を流れる多くの川がリオ五輪のセーリング会場となるグアナバラ湾に流れ込んでいるが、川の水は生活排水で汚染されているため、湾の水質も悪化している。リオデジャネイロ州政府は開催都市に名乗りを挙げた際、湾に流れ込む汚水の80%を除去すると公約したが、実現のめどは立っていない。

 ロイター通信は、胃腸や肺の感染症を治す抗生物質に反応しない細菌が水に含まれているとする生物学者の話を伝えた。選手が試合中に誤って水を飲んだりした場合、健康被害が出かねないと懸念されている。

 その川の一つ、パブナ川はリオデジャネイロ市とバイシャーダの境を流れている。河口から15キロほど上流を訪ねた。タクシーを降りたとたん、何とも言えぬ悪臭が鼻を突いた。川をのぞき込むと、木箱、マットレス、椅子、テレビ、ペットボトルなど、ありとあらゆるごみが散乱し、その上に多くの白い鳥が立っている。異様な光景にしばし呆然となった。

 川沿いには野菜や果物などの食料品を売る露天が並び、なかなかの活気だ。行き交う人々は悪臭など気にするそぶりも見せないが、これだけ不衛生な生活環境をどう考えているのか。

 近くに住む商店従業員のジルソンさん(66)は「露天商が平気で川にごみを捨てる」と憤る。行政によるごみの収集システムはあるのか聞くと「収集車は毎日来る」。どうしたらきれいな川が取り戻せるか聞くと「役所は何度も重機を使って川の清掃をした。しかし、やるべきは人々の(意識を変えるための)教育じゃないか。その方が安上がりで効率的だ」と訴えた。

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