バイシャーダとは、リオデジャネイロ市の北隣に位置する13の自治体の総称で、東京都の1.3倍にあたる約2800平方キロメートルの土地に、約370万人が住む。駅名が示すカシアスも自治体の一つだ。行政区分ではリオデジャネイロ州に属する。
ブラジルの調査機関によると、住民1人あたりの平均月収は545レアル(約2万円)だが、地域によってはもっと少ない。失業率は11%を超える。ラモンさんは「この地域は全体的に貧しく、ファベーラもあちこちにある」と言う。
どう動くべきか迷い、駅前をうろうろしていると、カシアスに28年住んでいるというタクシー運転手のアシスさん(60)が街の案内役を買って出てくれた。「コムニダージが見たいんだろう? 私以上にこの地域に詳しい人はいないよ」。ラモンさんによると、ファベーラという言葉には差別的なニュアンスがあるため、最近は「共同体」を意味するこの単語に言い換えることが多いらしい。
まず、「リシャン」という名のコムニダージへ向かう。半壊した家が密集する外観は、電車から見たマレ地区の光景とそっくりだ。ここは麻薬組織が支配しているという。
よく見ると、コムニダージに出入りする道路上には巨大なごみ箱や自動車が置かれ、中の様子がよく分からない。アシスさんは「警察や外部の人間が入って来ないように、ああやって妨害している。住民の見張りもいる。武装しているので非常に危ない」と首を振った。「夜になるとコカイン、マリフアナの密売人が出てくる。買いたければいつでも誰でも買えるよ」と苦笑いを浮かべた。
リシャンの隣にあるコムニダージに着く。とにかく、至る所ごみだらけだ。道路沿いのあちこちの塀にスプレーで「ごみ捨て禁止」と殴り書きされている。仕事がないのか、所在なげな住民がごみを集めて燃やしている。立ち上る煙が青い空を灰色にしてしまう。
伸びた草やごみでいっぱいの小川があった。この時期は乾期のためか、水はわずかしかない。しかし、「大雨が降るとたちまち洪水になる。周辺の貧しい家は水浸しになってしまう。みんな本当に困っているんだ」。アシスさんの親切な説明が続く。
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