南米初開催となる五輪を来年8月に控えるリオデジャネイロは、国際的な観光都市として名高い。1年中観光客でにぎわうコパカバーナ海岸や、熱狂と興奮に包まれる2月のカーニバルはあまりにも有名だ。五輪開催1年前の様子を取材した際、観光客や選手に見てほしい場所を市民に尋ねたところ、何人かが「バイシャーダ・フルミネンセ」に行くべきだと勧めてくれた。初めて耳にする地名だが、リオが持つもう一つの顔「貧困」を垣間見る機会になるという。いったいどんなところなのか。実情を探るべく、現地に向かった。(時事通信運動部・鳥居雄一)
リオデジャネイロ市の繁華街にあるブラジル中央駅から、北へ向かう近郊電車に乗る。しばらくは近代的な大都会の街並みが続くが、サッカーの聖地、マラカナン競技場を過ぎると車窓の風景が一変した。
半分崩れかけたレンガづくりの家が密集している。どの家も廃墟に近いが、物干し竿に洗濯物がぶら下がり、人が住んでいることが分かる。上半身裸で真っ黒に日焼けした子供たちが路上を走り回っている。建物の壁という壁は落書きだらけ。すさんだ光景が延々と続く。
「電車は今、マレという名のファベーラの中を通っています」。同行したブラジル人助手、ラモンさん(34)が教えてくれた。
ラモンさんはリオデジャネイロ連邦大学文学部日本語科を卒業したカリオカ(リオデジャネイロ市民のこと)だから大抵のことは何でも知っている。ファベーラとは、電気や水道などの公共サービスを受けていない粗末な建物が並ぶスラムのこと。リオデジャネイロ市の調査(2010年)によると、市民632万人のうち、4分の1近い144万人がファベーラに住む。
車内では、若い男たちが大声で物を売り歩いている。ガムやジュース、お菓子を抱え、何度も往復する。白い服を着たキリスト教の宣教師が近づいてきて、乗客一人ひとりに入信を勧めている。
突然、声を掛けられた。みすぼらしい服を着た男が、病気で入院中の娘の写真を私に渡し、薬を買うためのお金を恵んでくれと言う。ラモンさんが丁重にお断りしてくれた。何となく物騒な雰囲気の中、約40分で目的地のドゥキ・ジ・カシアス駅に着いた。
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