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【特集】五輪 あのとき

骨折隠し、金メダル公言

◇コーチに明かされた渡部暁 2018年平昌冬季

 骨折の大けがを隠して決戦に臨んだ。ノルディックスキー複合の渡部暁斗が2大会連続の銀メダルを獲得した2018年平昌五輪。厳しい状況で金メダルに挑んでいたことが、複合最終種目の団体後に明かされ、周囲を驚かせた。

 2月22日。4位にとどまり、敗北感をあらわにして渡部暁が会場を去った直後だった。日本チームの河野孝典ヘッドコーチが「実は五輪直前のジャンプ転倒で左肋骨(ろっこつ)が折れていた」と口にした。「暁斗さん、河野さんが何か言ってますよ」。報道を目にした仲間から伝えられ、渡部暁は「言うなよーと思った」。

 五輪直前、故郷の長野・白馬で開催されたワールドカップの公式練習で転倒し肋骨(ろっこつ)を折った。距離で、雪面にストックを突くと痛みが走り、平昌入り後も練習ができない状態。それでも、「金メダルを取る」と公言し続けた。

 本番では個人ノーマルヒルで長年のライバル、エリック・フレンツェル(ドイツ)と競り合って銀メダルを確保。だが、4度目の五輪でも頂点に届かなかった。

 実情を明らかにした河野氏は「ヤフーニュースのコメントを読むと、『暁斗が大口をたたいて勝てなかった』とか。彼のイメージに傷が付いたような気がして心苦しかった」と言う。自身は五輪の団体で連覇した1990年代の日本の黄金期を支えた一人。重圧を背負ったエースへのネガティブな反応が見過ごせなかったのだろう。

 コーチの発言を振り返った渡部暁は「結果的には僕の評価が上がったので、いいかなと思っている。渡部は男気ある、みたいな感じになって」と笑い話にする。33歳で迎える2年後の北京五輪では「生きざまを表現する」。金メダルを目指す歩みはなお続く。(2020.5.20)

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