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【特集】五輪 あのとき

南半球の「世界一幸運な男」

◇気が付けば金メダル 2002年ソルトレークシティー冬季

 伏兵の勝利とは少々異なる。転がり込んできた金メダルだった。2002年ソルトレークシティー五輪、スピードスケート・ショートトラック男子1000メートル決勝。スティーブン・ブラッドバリー(オーストラリア)は、半ば悠然と最後尾を滑走していた。ところが、前を行く選手が次々と転倒。難を逃れたブラッドバリーが一番先にゴールラインを越えた。「世界一幸運な男」と言われた。

 28歳のブラッドバリーは、それより8年前の1994年リレハンメル五輪で5000メートルリレー銅メダルの実績があり、3大会連続の五輪出場。とはいえ、決勝に残れるレベルではなかった。準決勝で最後尾を滑っていると、有力選手が転倒し、日本の寺尾悟に次いでゴール。寺尾は直後に、転倒を誘発したと審判団にみなされ失格となった。

 そして決勝。ひとかたまりのようになって激しく争っていたアポロ・アントン・オーノ(米国)ら4人全員が、最後のカーブの途中で絡み付くように転んだ。ブラッドバリーは、立ち上がろうともがくオーノらを難なく抜いていった。というより、気が付けば視界が開けていた。誰もがあっけにとられたが、本人は「作戦がうまくいった、ということかな」。してやったりの表情を見せた。

 かつてはレース中に大けがをしたり、首などを痛めて療養したりと苦難もあり「これまでの苦労が報われた」と実感を込めた。「決して最高の気分ではない」と転倒した選手たちの気持ちをおもんぱかった上で、こう言った。「これがスポーツ。いつも強い選手が勝つわけじゃない」

 豪州初、そして南半球に初めて冬季五輪の金メダルをもたらした。その「偉業」が五輪の歴史に刻まれたのは確かだ。(2020.5.9)

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