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【特集】五輪 あのとき

室伏、7日後の「真実」

◇ライバルの違反、繰り上げV 2004年アテネ

 2004年アテネ五輪で陸上男子ハンマー投げの金メダリストとなった室伏広治は、いったん銀メダルを手にしていた。ドーピング検査違反でアドリアン・アヌシュ(ハンガリー)が失格。日本勢初となる投てき種目の五輪制覇が決まったのは、競技から1週間後の大会最終日だった。

 決勝は見応えがあった。83メートル19を投げていたアヌシュを抜こうと挑んだ最終6投目は会心の一投となり、82メートル91のシーズン自己ベスト。しかし、28センチ及ばなかった。

 表彰台では「銀メダリスト」として、アヌシュと健闘をたたえ合った。ところが友人でもあったライバルの不正が判明した。

 繰り上がり優勝を受けての会見に、晴れがましさはなかった。この席で室伏は、メダルの裏に刻印された古代ギリシャの詩人ピンダロスの訳詞を自筆でしたためて報道陣に配った。「真実の母オリンピアよ あなたの子供達が競技で勝利を勝ちえた時 永遠の栄誉(黄金)をあたえよ それを証明できるのは真実の母オリンピア」

 室伏は「メダルの色はいろいろあるが、大事なのはそこに向かって努力すること。真実の中で試合が行われることがどれだけ大事かと感じ、引用した」と胸中を明かした。

 ハンマー投げでアジア大会5連覇を遂げた父・重信さんと二人三脚で頭角を現し、アジアのトップへ。01年世界選手権で銀メダルに輝き、03年には当時世界歴代3位の84メートル86をマーク。アテネ五輪には優勝候補の一角として臨んだ。

 当時29歳。体格では欧米勢に劣るが、父子で高速4回転投法を磨き上げた。クリーンな競技人生が報われたが、「メダルは直接表彰台で受け取りたかった」と本音も漏らした。

 その1カ月後。横浜での陸上大会でメダル授与式が行われ、約5万人の大観衆の前で金メダルとオリーブの冠を贈られた。「皆さんの応援によるエネルギーがもたらした真実の金メダル」と誇らしげに胸を張った。(2020.5.1)

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