ロサンゼルスで生まれ育ったリード。エンゼルスの本拠地アナハイムから30分ほどのところにあるカリフォルニア州立大学ロングビーチ校の野球部で活躍し、大学のアメリカ代表チームにも選出された。
2002年のドラフトで、2巡目全体59位でシカゴ・ホワイトソックスから指名を受けてプロ入り。2004年にトレードされたシアトル・マリナーズで外野手としてメジャーデビューを果たす。イチローとも一緒にプレーした。
その後、メッツ、ブルージェイズ、ブリュワーズを渡り歩き、2011年に30歳で現役を引退。483試合に出場し、打率.252、ホームラン12本という通算成績を残した。
「選手としての経験を通じていろいろなことを学んだ」とリードは話す。「僕はすごい選手ではなかったから、とにかく努力する必要があった。ほんの少しだけ成功もあったけど、苦労の方がずっと多かった。そのおかげで、いろいろな引き出しを持っている。たとえば、選手が精神的なことで悩んでいたら、僕もそういう経験があるから力になれる」
「選手を見下して命令口調で言っても、響かないことも学んだ。仕事の半分は相手の話を聞いて信頼を得ることなんだ。(大谷のように)自分で考えて調整できる選手を見るとうれしい。選手は、僕なんかよりずっと自分のことを理解しているはずだから」
メジャーリーグのコーチは選手に打ち方を教えはしない、とメジャー取材歴22年のジェフ・フレッチャー記者も言う。選手たちは既に打てる力があるからメジャーまで上がれたと考えるからだ。大きな仕事は、不振の選手に良かった時との違いを指摘して、その姿に戻す手伝いだ。
それでは、メジャーでうまくいく選手とそうでない選手の違いは何か?
「居心地のいい場所から抜け出る意欲があるかどうかは大きい」とリード。「でも、それでもうまくいかないこともあるのが野球だよ。やれることは全てやったとしても、それは対戦する投手も同じ。お互いそれでお金をもらっている。僕にとって大変なのは、うまく打てても結果としてアウトになった時に、何かを変えなきゃと思う選手を、そのままでいいんだと納得させること」
リードに打撃コーチとして最も注意を払う数値は何かと聞くと、「出塁率」という答えが返ってきた。エンゼルスは、バッターの打席での判断を重要視していると言う。
「投手に打ちごろの球を投げさせることが、優れた打者になるカギだと僕は強く信じている。ボール球を振らされたり、上下左右、色々な場所に投げられたりしてしまうと、打ちやすいカウントに持っていきづらくなる。だから積極的な姿勢はいいけど、そこに知性があってほしい。ケガをしたベテランの代わりに若い選手が上がってきているけど、彼らにはスイングだけじゃなくて、バッターボックスでどんな判断をするかを重視していると繰り返し言っている」
日米の野球の違いについても聞いてみた。
「日本人選手はアメリカに来たからといって、やり方を変える必要はない。僕が最初に学んだことの一つが、正解は一つではないということ。日本の野球を見てみると、素晴らしいところがたくさんある。彼らにとって大事にしていることがあり、それが自信を生んでいる。南米の選手も同じこと。僕がこうしろ、ああしろといっても、うまくはいかないよ。彼らがメジャーに来られたのには、ちゃんと理由がある。見た目には違うように映ることも、実は本質は同じだということもある」
選手の自主性を重んじ、普段は温かく見守る。そして必要な時にサッと手を差し伸べる。日本で部活動をしていた時、もしこんなコーチに出会っていたら、と思わずにはいられなかった。
大谷は幸せ者だ。
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志村朋哉 在米ジャーナリスト。アメリカの現地新聞社で数少ない日本育ちの記者として10年間働き、政治や経済、司法、文化、スポーツなど幅広く取材。現在はカリフォルニア州オレンジ郡を拠点に活動し、日米メディアに日本語と英語で記事を寄稿している。
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