麻酔薬によって陣痛を和らげる「無痛分娩(ぶんべん)」。産後回復の早さなどから米国やフランスでは、6割以上の妊婦が利用するが、日本では1割未満。無痛分娩に伴う死亡事故が相次いで発覚したこともあり、妊婦や関係者の間では不安も広がる。無痛分娩は本当に大丈夫なのか。医師や利用した女性に話を聞いた。(時事ドットコム編集部・山田将司)
「産後早めに職場復帰し、ブランクを短くしたいと考えていたので、無痛分娩を選びました」―。こう語るのは、東京都渋谷区に住む会社員加藤道子さん。自宅では2歳児の母親として子育てに奮闘する一方、日中は国内大手投資ファンドに勤務し、新規事業に関わるなど多忙な業務をこなす。2年前の初産では田中ウィメンズクリニック(東京都世田谷区)で男児を出産した。
陣痛から出産まで半日を要し、痛みは赤ちゃんが降りる際、圧迫された腹部と切開した会陰(えいん)部だけだった。翌日には元気に歩けるようになり、出産経験のある姉に驚かれたという。「産後3カ月で仕事に復帰できました。無痛分娩のおかげかも」と笑顔を見せた。
出産時の痛みは、子宮の収縮そのものと、赤ちゃんが狭い産道を通ることでその周りが引き伸ばされることで発生するものとがある。一部の研究では、手の指を切断したほどとされており、これを麻酔薬で和らげるのが無痛分娩だ。完全に痛みを取り除けないため、「和痛分娩」と称する施設もある。
一般的に陣痛を生理痛程度の痛みにまで抑えられると言われる。痛みが和らぐため、安心して出産に臨むことができ、緊張に伴う疲れが出にくい。また、すぐに麻酔をかけられるため、胎児機能不全などの急変時の対応にも優れる。山王バースセンター(東京都港区)の北川道弘院長は「緊急帝王切開に移るのに20~30分間は短縮できる」と説明。都内の大学病院に勤務する男性産科医も「母体死亡率は、通常の分娩と比べ10分の1程度」と話す。
海外では盛んに行われ、帝王切開を除くと米国では約60%(2008年)、フランスでは約80%(10年)の女性が無痛分娩を選択。一方、日本ではお産の痛みを「美徳」と捉える風潮もあるため、なかなか広まらず、日本産婦人科医会が17年6月に実施したアンケート調査によると、全分娩中6%にとどまっている。
歴史は古く、過去にはビクトリア英女王(1819〜1901年)や歌人与謝野晶子(1878〜1942年)も受けている。「当時は筋肉注射やクロロホルムを使ったガス麻酔などで痛みを和らげていた」(北里大病院麻酔科・奥富俊之診療教授)が、現在は「硬膜外鎮痛法」(硬膜外麻酔)と呼ばれる方法が主流になっており、日本産婦人科医会の調査では、無痛分娩を行う医療機関のほぼ全てが、この方法で実施している。
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