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金融リテラシーでお金に困らない人生を 絶対知るべき六つの大切なこと 令和の新社会人へ「お金のススメ」(16)
 マネーのプロが教える初めの一歩

2023年01月24日18時00分

金利が上がったら、通常、債券価格はどうなるでしょうか

金利が上がったら、通常、債券価格はどうなるでしょうか

 「金利が上がったら、国債など債券の価格はどうなるでしょうか?」。この質問、正しく答えられるのは4人に1人もいません。SNSでマネー情報に接していても、お金の知識や判断力を示す「金融リテラシー」が身に付くとは限りません。お金に困らない人生を送るために、新社会人が知るべき六つの大切なこととは…。

 ◇分かったような気がするだけ?

 金融広報中央委員会(事務局・日銀)は「金融リテラシー調査(2022年)」を行いました。3年ごとに実施しており、今回の対象は18~79歳の個人3万人。「金融知識・判断力」に関する正誤問題と「行動特性・考え方」で、計53問あります。冒頭の質問はその一つ。正解は「下がる」で、正答率は23.6%でした。

 金融知識・判断力を問う正誤問題(25問)の正答率は55.7%。年齢層別に見ると、若年社会人(29歳まで)は41.2%で最低です。金融取引の経験が少ない若年層の正答率が低いのは仕方がない面もありますが、気になる結果も浮き彫りになりました。それは、若年層の「金融リテラシー・ギャップ」の大きさです。

 金融リテラシー・ギャップは、知識問題の正答率から計測される「客観的評価」の指数から、自分の金融知識は他の人と比べてどのようなレベルにあると感じるかの「自己評価」の指数を差し引いて算出します。マイナスは自分が思うほど正しい金融知識・判断力が身に付いていない状態です。金融教育を受けたと答えた若年社会人は、金融リテラシー・ギャップがマイナス41.9で、5~6人に1人が金融トラブルを経験していました。

 SNS等で発信されるさまざまなお金に関する情報に触れるうちに、何となく分かったような気になるのかもしれません。中途半端な金融知識による過信は、投資詐欺やトラブルに巻き込まれる一因にもなり得ます。

 ◇「ざんねん」な投資信託を勧められ…

 政府は「貯蓄から投資へ」をスローガンに資産所得倍増計画を掲げ、24年からNISA(少額投資非課税制度)を拡充します。詳しくは前回(「お金のススメ第15回」)で説明した通りですが、投資を始める人は増えていくでしょう。

 金融リテラシー調査によると、元本保証のない株式や投資信託等を購入した人のうち、およそ4人に1人は商品性を理解しないまま購入していました。これらには当然リスクが伴います。運が良ければうまくいくかもしれませんが、想定外の損失で人生が変わる場合もあるのです。

 私が関わったマネー相談の事例です。相談者は、ある銀行に「1000万円の資金をどんな金融商品に預ければよいか」と相談しました。窓口の銀行員から勧められたのは「毎月分配型」と言われる投資信託。毎月必ず5万円の分配金があり、給与などの定期収入以外に毎月お金が入るのはありがたいと思ったそうです。金融機関はリスクのある商品を販売する際に顧客に説明する義務を負っていますが、相談者は正直よく理解できないまま、購入に同意しました。

 購入した投資信託は運用成績が悪く、金融機関に支払う手数料も非常に高い、とても「ざんねん」な投資信託でした。利益がほとんど出なかったので、元本1000万円を原資として毎月5万円の分配金が払われていました。いわゆる「タコ足配当」です。運用とは名ばかりで、タコが足を食べるように、自分で自分の資産を食いつぶしていただけでした。相談にいらした時、1000万円あった元本が300万円ほどになっていました。

 金融機関は営利企業です。金融商品を販売する際、自分たちの利益になる手数料ができるだけ高い商品を売りたいと思っています。顧客にハイリスク・ハイリターン型の商品を勧める銀行は後を絶ちません。ですがリスクを理解したかどうかを確認する書面に同意してしまうと、投資の損害は基本的に自己責任です。

 ◇若者に必要な六つの金融リテラシー

20代に覚えてほしい金融リテラシー

20代に覚えてほしい金融リテラシー

 高校家庭科で金融教育が始まりましたが、金融リテラシーは実践を伴ってこそ意味があります。若い皆さんには、六つの大切なことを知っておいてもらいたいと思います。

 一番目は、「貯蓄習慣」です。定期預金や財形貯蓄等を利用して給料日に自動的に天引きする習慣を身に付ける。お金をためるには先取り貯蓄で行いましょう。

 二番目は、「収入と支出の把握」。毎月何にいくらお金を使っているかを把握することは家計管理の基本。簡単な支出メモや家計簿アプリなどを活用して管理しましょう。

 三番目は、「公的年金・公的保険の内容理解」。これを理解していないと、不必要な民間保険に加入することになりかねません。自分が入っている公的年金(国民年金や厚生年金など)や公的保険(国民健康保険、健康保険など)でカバーできない部分を確認した上で、民間保険に入りましょう。老後資金が心配なら、iDeCo(個人型確定拠出年金)等で備えることもできます。

 四番目は、「キャリア計画と自己啓発」。お金だけではなく、20代社会人はスキルアップやキャリアアップの投資も必要。知識や技能はあっという間に時代にそぐわなくなります。リスキリング(学び直し)は重要です。

 五番目は、「金融商品の性質を知ること」。預貯金など一部を除き、大半の金融商品には元本割れリスクがあります。リターンとリスクは比例します。投資をする前に、リスクがどれほど大きいのか、万一の損失に耐える余力が自分にあるかを見極めましょう。

 最後は、「信頼できる外部知見の活用」です。例えば、金融リテラシー調査を行った金融広報中央委員会は、暮らしに役立つお金の情報サイト「知るぽると」を運営しています。中立・公正なものを利用しましょう。

 お金に関わる知識や判断力が備わっていないと、なかなか資産を築けず、お金の心配事が絶えなくなります。金融リテラシーは一朝一夕で身に付くものではありません。急がず慌てず少しずつお金に関する知識や判断力を高めて、お金に困らない人生を手に入れましょう。(ファイナンシャルプランナー 樋口文子)

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