2022年12月26日13時00分
NISA拡充の概要
少額投資非課税制度(NISA)が生まれ変わります。投資の王道である「長期にコツコツ積み立て」に一段とふさわしくなりました。20代の皆さんが賢く使えば、人生100年時代の資産倍増は不可能ではありません。その秘訣(ひけつ)とは。
◇若者にうれしい「無期限の非課税」
NISAは税金がかかることなく、少額の投資ができる制度です。通常、投資の利益に対する税金は約20%で、10万円の利益が出ると、約2万円を税金として納め、手元に残るのは約8万円です。NISAではここが非課税となります。
「一般NISA」は2014年にスタート。現在は「つみたてNISA」と「ジュニアNISA」(23年末で廃止)合わせて3種類があります。
一般NISAは上場株式などに投資でき、年間投資額は120万円まで。非課税の期間は5年間です。つみたてNISAは長期の積み立て・分散投資に適した、金融庁が厳選した投資信託が対象商品で、年40万円までの投資を20年間、非課税で行えます。一般NISAとつみたてNISAを同時に行うことはできません。
この現行制度は将来的に廃止が決まっていますが、24年から始まる新制度では恒久化、つまりいつでも投資を始められ、ずっと続けられるようになります。非課税期間は無期限とされました。また一般NISAとつみたてNISAを一本化。一般NISAは「成長投資枠」となり、つみたてNISAを引き継ぐ「つみたて投資枠」と併用することができます。
年間の投資上限額もかなり増えます。成長投資枠は240万円(一般NISAの2倍)、つみたて投資枠は120万円(つみたてNISAの3倍)で、年間360万円まで投資できるようになります。一生涯に投資できる金額には上限が設けられ、1800万円(うち成長投資枠は1200万円)までです。
一生涯では上限があるものの、非課税投資を無期限で続けられることは、20代の皆さんにとってはとても大きなメリットです。
投資の基本は、投資先を分散しながら長期にわたって積み立てていくことです。毎月決まった金額を投資し、安いときは多く、高いときは少なく買う「ドルコスト平均法」と組み合わせることで、平均購入価格が抑えられ、利益を上げやすくなると言われています。歴史を振り返ると株価は永遠に上がり続けることもなければ、下がり続けることもありません。
非課税投資期間が最大20年に限定されていれば、タイミングによっては損失が出る可能性もあります。例えば、日経平均株価が過去最高値3万8915円をつけた1989年末から同株価に連動する投資信託を毎月1万円ずつ購入したと仮定しましょう。バブル経済の崩壊、リーマン・ショック等で日経平均は7000円を割り込むまで下落し、20年後の09年末の運用結果はマイナス。その後、安倍政権の経済政策「アベノミクス」による株価上昇でプラスに転換し、32年後の21年末は93%のプラスです。つまり投資額の約2倍の資産になるのです。
長期・分散・積み立て投資の効果(過去データに基づくものであり、将来の見通しを示すものではありません)
新NISAでは、今までのように投資が非課税期間に縛られることはなくなります。もしも20年後に株価が大暴落していたら、上昇することを待つという選択ができるのです。投資期間が長い20代の皆さんにとっては、自分が納得できる価格とタイミングで売却することができる可能性が高くなります。
ライフイベントに応じて投資の目的も変えられます。住宅購入時の頭金、子供の教育資金、老後資金等々が考えられます。中でも老後資金の場合は40年近く運用できるので、お金が増える複利効果は投資期間20年よりもさらに高くなります。新NISAの投資枠は買い付け額で決まります。売却すれば、その分だけ枠が空き、再び上限まで非課税で投資できます。例えば積み立てた投資商品をいったん売却して住宅購入資金に充て、その後老後資金のために再び新NISAを始めるということも可能です。
◇投資は貯蓄とのバランスを考えて
新NISAのつみたて投資枠は年間120万円まで、毎月投資する場合は1カ月最大10万円充てることができます。
しかし20代の皆さんの中で、毎月10万円投資できる人は限られているでしょう。
投資は余裕資金で行うのが基本です。20代の皆さんは、まず半年~1年分の生活費相当額や近い将来必要なお金を、定期預金や財形貯蓄等の元本保証のある金融商品で準備することが重要です。
18年につみたてNISAが始まって以降、20~30代のNISA利用者は増えています。中には余裕資金のほとんどを投資に回している人もいるようですが、いざという時に必要なすぐ引き出せるお金をためておかず、すべて投資につぎ込んでしまうのはお勧めできません。
予期せぬ失業や結婚費用が足りないからと、NISAで積み立てた資金を早々に売却していては、長期投資のメリットを享受できません。15年以上は売却しないくらいの心構えでいるのがよいでしょう。
月3万円の余裕資金があるのなら、例えば定期預金等に2万円、つみたて投資枠に1万円と振り分ける方法もあります。ある程度お金がたまったら、投資額を増やしていくこともできます。自分はどれくらいリスクが取れるかを考え、投資比率を決めましょう。
新NISAにどう投資するかですが、成長投資枠は初心者にはハードルが高い面があります。主に上場企業の株式を買うためのもので、投資先の財務状況や成長性などさまざまな要因を見極めなければなりません。
一方、つみたて投資枠は、初心者に向いています。全世界株式インデックス(株価指数などの値動きに連動した運用成果を目指す投資スタイル)型など、時間、お金、投資先が自然と分散され、リスクが比較的低い投信を一定期間ごとに購入します。ネット証券を利用すれば、投資を託す手間賃である信託報酬等の費用がかなり抑えられた商品を選ぶことができます。資産を増やせるだけでなく、同インデックスに影響する世界経済や政治の動向にも興味が出てくることでしょう。
既に一般NISAやつみたてNISAの口座を開設している人は、23年末をもって新たな投資はできなくなります。口座に残った商品を現在のNISA制度で定められた期限まで非課税保有できる一方、新NISAを始める場合は生涯投資額を満額使えます。
「投資は怖いもの」という声をよく聞きます。大きな損失を出すリスクを冒して一獲千金を狙う投機性の高いFXや仮想通貨は、堅実な投資先とは言えません。インデックス型投信とは全く違うものと考えてください。大切なのはリスクの少ない投資を余裕資金で長期間コツコツ続けること。相場の上がり下がりに一喜一憂せず、長い目で投資に向き合っていきましょう。(ファイナンシャルプランナー 樋口文子)
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