今回は、お給料にかかる所得税のお話です。「何だか難しそう」と思うのも無理はありません。正直言って複雑で、給与担当部署にでもいない限り、上司や先輩もよく分からない人が多いのではないでしょうか。ただ大まかな仕組みを知ることはお金を増やす上でとても重要です。収入から納税額が分かるまでを三つのステップで学び、同期や先輩の一歩先を行くマネーの知識を身に付けましょう。
(ステップ1)収入-必要経費=所得
お給料にかかる税金には国に納める所得税と、都道府県や市町村に納める住民税の2種類があります。このうち所得税は1年間(1月1日から12月31日まで)に得た所得に対してかかる税金です。ポイントは収入ではなく、所得に対してかかる税金ということです。では収入と所得はどう違うのでしょうか。
「入ってくるお金の額?」という感じで、同じだと思われるかもしれません。しかし「収入」と「所得」は、税金では区別しなければなりません。その違いを知ることが所得税を理解するためにとても大切なのです。
よくある誤解は、「所得って手取りだよね」というものです。手取りは収入(総支給額)から社会保険料(健康保険、年金など)と税金を差し引いたもので、税制上の「所得」とは異なります。ここで言う「所得」とは、収入から「必要経費」を差し引いたものを言います。では必要経費とは何でしょうか。
収入を得るためには必要経費がかかります。例えばお店などを自ら経営する事業主にとっての必要経費は、仕入れ代金や光熱費などです。必要経費の額はそれぞれ異なり、事業主は自分で必要経費を計算し、税金を納めるために税務署に申告します。これに対し、会社員や公務員は自分で必要経費を計算することはありません。収入の額によって必要経費がきまっているためです。これを「給与所得控除額」といいます。
例えば収入が180万円超360万円以下の場合、給与所得控除額は「収入金額×30%+8万円」です。年収が250万円の例で考えると、給与所得控除額(必要経費)は83万円、それを差し引いた167万円が所得になります。この所得額をもとに勤め先が税額を計算し給与等からあらかじめ差し引くので、多くの会社員や公務員は自分で申告し税金を納付する必要がありません。
(ステップ2)個人事情を考慮する「所得控除」
収入から必要経費を引いたものが所得だと分かりましたね。ステップ2のキーワードは、「所得控除」です。所得から所得控除を差し引いて、所得税額のベースとなる「課税所得金額」を出します。
所得控除は個人の事情に応じて、税負担を軽くするものです。世の中には、高校生や大学生の子供の教育費が大変な人、また病気やけがで医療費がたくさんかかる人もいます。一方、独身で扶養する家族もおらず健康な人もいます。こうした人たちが、同じ所得で所得税の額も同じだったらどうですか。ちょっと不公平な感じがしますよね。だったら事情がある人の税負担を軽くしてあげようという考え方が所得控除です。
所得控除は全部で15種類あり、多くの新社会人に関係があるのは「基礎控除」と「社会保険料控除」です。基礎控除は所得2500万円以下の人に適用され、最大48万円を差し引けます。また社会保険料控除は皆さんが支払った年金保険料や健康保険料等の全額を控除するものです。他にもいろいろな所得控除がありますが、控除の可否や金額はおのおのの事情によって違ってきます。
(ステップ3)所得税率は5~45%
最後のステップ3では、課税所得金額に税率を掛けるなどして所得税額を求めます。日本はお金持ちほど負担が重い超過累進課税制度の国です。所得税の税率は7段階に分かれていて最低は5%、最高が45%です。10%以上では税率を掛けた金額から一定額を差し引きます。
上記の例で挙げた年収250万円の場合で考えてみましょう。167万円の所得から所得控除(基礎控除48万円、社会保険料控除28万円と仮定)を引いた91万円が課税所得金額です。税率5%が適用され、所得税額は約4.5万円になります。(実際はさらに復興特別所得税額が加算され、約4.6万円になります)
◇所得控除で差がつくiDeCo
所得税に関係している税制優遇制度と言えば、個人型確定拠出年金の「iDeCo(イデコ)」です。イデコは企業年金の一種で、老後資金を自分で積み立てて運用し、60歳以降に年金として受け取る制度です。運用している間に生じた利益に税金がかかりません。
さらにイデコ掛け金には、「小規模企業共済等掛金控除」という所得控除が適用されます。例えば毎月2万円をイデコに拠出していれば1年間で24万円全額が所得控除になり所得から差し引かれます。老後の資金を自分でためて頑張っているから税金をおまけするねということです。
イデコでは拠出したお金は原則60歳まで引き出しができないので、新社会人の皆さんにとっては貯蓄の優先順位としては低くなるかもしれせん。しかし所得税の減税効果が毎年あるとても有利な制度ですので、今すぐでなくても、ぜひ活用していただきたいと思います。拠出できる金額は勤め先の企業年金制度によって違います。加入したいと思ったら、給与担当者に確認してみましょう。
このほか、所得控除と言えば、豪華返礼品などで話題になったふるさと納税にも適用されます。「寄付金控除」に当たり、地方自治体に寄付してくれたから、税金を少し安くするねということです。寄付額から2000円を引いた額が控除額になります。また住宅ローン減税などのようにステップ3で算出された所得税額からさらに税金が軽減される制度もあります。
所得控除の額が増えれば増えるほど、税金はその分少なくなります。今は払う税金が少ないので、「税制優遇」と言われても、「たったこれだけ」と感じるかもしれません。しかし年を重ねて所得が増え、納税額も大きくなると恩恵も大きくなります。税金を知って賢くお金を増やしていきましょう。(ファイナンシャルプランナー 樋口文子)
(2021年11月掲載)
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