弁護士に相談し、労働審判を申し立てた。2014年6月、会社から謝罪文と解決金を得て和解。その翌月、マタハラ被害者を支援する団体「マタハラNet」を立ち上げた。原動力は怒りだ。小酒部さんは「言われた言葉があまりにもひどかった。怒りのエネルギーを何かにぶつけなければ、自分が自分でいられなかった」と振り返る。
労働審判に進む過程で、2人の働く女性と知り合っていた。いずれも正社員で産休・育休を取っていたが、1人は復帰直後から深夜に及ぶ残業を命じられ、もう1人は復帰する場所すら用意されていなかった。こうした女性たちとのやりとりを通じて、被害者同士つながることが闘う力になると実感した。
団体設立後の1年で約170件の相談を受けた。被害者の交流会を定期的に開催するほか、自治体の研修や講演でマタハラ防止を訴えるなど、精力的に活動している。
今年3月には米国務省から「国際勇気ある女性賞」を日本人として初めて受賞した。最近は欧米だけでなく、中東や南米のメディアからも取材を受ける。小酒部さんは「急速に進む少子高齢化に日本がどのように対応するのか、世界が注目している。子どもがこれ以上減っては困るはずなのに、なぜマタハラのような問題が起きるのか。海外から見れば不思議なのだろう」と話す。
連合非正規労働センターの村上陽子総合局長(48)はマタハラについて、「子育て支援の制度があっても、職場の人員に余裕がなければ起こり得る。現場の管理職の理解が不足しているケースも多い」と指摘する。
働きながら妊娠した経験のある全国の女性654人を対象に連合が今年8月に行った「マタハラに関する意識調査」によると、約3割がマタハラを受けていた。内容は「妊娠や出産がきっかけで、解雇や契約の打ち切り、自主退職への誘導などをされた」(11.5%)が最も多く、「妊娠を相談できる職場文化がなかった」(8.6%)、「妊娠中や産休明けなどに心無い言葉を言われた」(8.0%)と続いた。
マタハラが起こる原因については「男性社員の理解・協力不足」(67.3%)がトップで、以下「職場の定常的な業務過多・人員不足」(44.0%)、「女性社員の理解・協力不足」(39.1%)となった。女性活躍の議論には「女性だけに働くことと家事・育児の両立を求める風潮に疑問」(55.7%)、「机上の空論」(45.1%)などと批判的な意見が集中し、「制度を利用しやすい空気ができて良かった」(5.4%)、「自分のキャリアを描きやすくなった」(2.3%)など評価する声は少なかった。
連合はマタハラ防止のための手帳を作成。読者は妊娠した女性だけでなく、上司や同僚も対象とし、職場の意識啓発に役立ててほしいとしている。
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