夜になり、洗濯物ネットと蛍光灯で作ったあんどん型の自家製ライトトラップ(光で虫をおびき寄せるわな)を窓の外に吊るしておく。これまでは床に置く方式だったが、今回は多少改良して、上から吊るせるようにしたのだ。
台湾では日本の電灯が変圧器なしでそのまま使える。コンセントの形も日本と同じだ。つまり、ライトトラップ用の荷物は最低限で済む。それなのに台湾の山の宿に来て、ライトトラップをしないなど、虫好きとしては考えられない。
しばらくすると、すさまじい数の蛾が集まってきた。谷関温泉の比ではない。色も形もとりどりで、万華鏡のような世界だ。やはり「蛾は小さいほどきれいの法則」が健在で、アカスジシロコケガの仲間など、デザインの妙に感動する。モンウスギヌカギバも来た。羽の模様が鳥の糞に集まる蝿(ハエ)のように見えるという不思議な擬態の蛾だ。清楚(せいそ)な白地に赤い縁取りのツバメエダシャクの仲間も、つい指乗せしたくなる美しさだ。
カマキリモドキやナナフシといったおまけの虫たちも、役者ぞろいだった。カマキリモドキは、どう見てもカマキリの仲間だが、意外にもクサカゲロウの仲間なのだそうだ。透明な羽や飛び方は確かにクサカゲロウに近いのだが、首から上は絶対にカマキリだ。馬の体に人間の上半身を付けた半獣半人のケンタウロスのような存在である。
カマキリモドキは肉食なので、適者生存の法則に従って鎌が立派なものが生き残る進化を繰り返して、今のような姿になったのかもしれない。
窓の外に集まる蛾を鑑賞しながら、売れっ子の作家気取りで高山茶の香りを楽しむ昆虫記者。これこそまさに、大人の虫旅だ。だが、貧窮している昆虫記者が、どうやって高級な台湾高山茶を手に入れたのだろう。近くの茶畑からこっそり葉を摘んできたのか。
うれしいことに、八仙山荘の部屋には高級高山茶を楽しめるセットが用意されていたのだ。そうでなければ、こんな高価なお茶を昆虫記者が飲めるはずがない。茶葉だけでなく、茶盤、茶つぼ、茶海、茶杯がそろった本格セットである。
台湾と言えばお茶だ。お茶の葉も茶器も有名だ。そして、谷関温泉から8号線をさらに奥地へと進んだ所に、最高級ウーロン茶である梨山茶の茶畑があるという。標高2000メートルの高地の茶畑である。
谷関の土産物屋では、高価な高山茶がいろいろ並んでいたが、当然ながら昆虫記者にはそんな物を買う余裕はない。それが、ここ八仙にきて、無料で楽しめたのである。そして、窓の外には蛾の万華鏡。最高の雰囲気の中で飲む、最高のお茶だ。
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