シンガポール動物園は、同国の観光地ベストテンの常連なので、土曜と日曜は大混雑が予想される。のんびりと見て回りたい人にとってお薦めなのは、月曜の午前中だ。しかし、そもそもなぜ、昆虫記者が動物園に行くのか。これは職務放棄ではないのか。だが、昆虫記者にも休息は必要だ。全日程で1日くらいは休みを入れないと、老体がもたない。虫撮りを頑張り過ぎて過労で倒れても、労災扱いにはならないし、誰も同情してくれない。家族からも、家事をおろそかにした天罰だと言われるだけである。というわけで、月曜は虫撮りの激務で疲れ果てた心身を癒やすため、シンガポール動物園で人並みの休暇気分を味わうことにした。(時事通信社 天野和利)
シンガポール動物園はもちろん、動物を見る所だ。動物園はいつでも、どこでも子供たちに大人気で、昆虫記者も動物園は嫌いではない。なぜなら、動物が襲ってくることがないからである。トラやライオン、ワニなどの人を食い殺すような生物も、ここではおとなしく、子供たちの憧れの視線を集めている。ジャングル探検で、常に猛獣や毒蛇の出現におびえている昆虫記者にとって、これは快感だ。野良犬、野良猫にさえ脅かされてきた昆虫記者にとって、動物園は積年の鬱憤(うっぷん)を晴らす場なのだ。
人間は地球上で一番偉い生物のように振る舞っているが、自然界に裸で放り出されたら、恐らく一番弱い動物なのではないだろうか。その弱虫が強い相手を睥睨(へいげい)して威張れる所。それが動物園である。昆虫記者のような動物(野生のみならずペットも含む)を恐れる人間が、真のジャングルの脅威を思い出しながら、優越感に浸る場としての動物園の楽しみ方もあっていいのだ。
このような言い方をすると、世間の批判を浴びるのは必至である。動物に対するパワハラ、虐待にも通じると非難されるかもしれない。そもそも、動物園自体がこうした非難を浴びた時代もあった。その背景としては、かつての動物園の主流の施設が、檻(おり)であったことも大きい。
その後、動物園は大きく変わった。檻がなくなったのだ。シンガポール動物園はその先駆け、代表的存在である。
檻のない動物園の構造は「オープン・コンセプト」と呼ばれる。檻の代わりに、溝や池、電気ワイヤなどの目立たない障壁を使って、危険な動物が一定区域から出ないよう工夫してあるので、まるで動物と人間が同じ環境の中にいるように感じられる。動物の生息地に近い環境をつくり、生活に飽きさせず、ストレスをためさせない工夫を凝らしており、「アニマルファースト」と言っていい施設なのである。しばしばアジアでナンバーワンの評価を得ているのも納得だ。
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