ウオーターフロントのホテルでくつろぐ昆虫記者。潮騒の音に誘われて窓を開ければ、白い砂浜に青い海。うそである。「そうだったらいいな」と思ったにすぎない。確かにホテルは海に近いが、小さな窓は山に面している。たとえ海側に窓があったとしても、目の前にあるのは高速道路だ。その向こうはクレーンが並ぶ港湾施設である。(時事通信社 天野和利)
ホテルの最寄りは、MRTと呼ばれる地下鉄サークルラインのテロックブラガ駅だが、サークルラインとノースイーストラインのターミナル駅であるハーバーフロントにも歩いて行ける。ハーバーフロント駅の目の前には、ユニバーサルスタジオ・シンガポールやビルのように巨大なマーライオン像で有名なセントーサ島がある。しかし、中心部の繁華街からは離れていて、ショッピングやグルメには不便だ。そのせいか、この辺りには格安のホテルが幾つかあった。
このところ給料激減の昆虫記者にとっては、便利さより断然値段である。虫の話などをいくら書いても、勤務面のプラス評価には全くつながらないのだ。グルメやファッション、鉄道などに詳しい記者は、それなりに重宝されるのだが、虫に詳しくても、煙たがられ、さげすまれるだけなのである。「なぜグルメや鉄道は良くて、虫はだめなんだ!」などと声を荒らげて、社内に巨大なマダガスカルゴキブリをまき散らしたりしても、昆虫記者が懲戒免職になるだけで、世の中は何も変わらない。
値段の次に大事なのが付近の「昆虫濃度」だ。海辺では虫がいないのではないかと気をもむ向きもあるだろうが、心配はご無用。ホテルの背後には「サザンリッジ」という魅力的な森があるのだ。シンガポール南岸の尾根である。ホテル裏手のペンダーロードはもう森の中、昆虫世界だ。
ホテルの横の坂道を上れば、15分ほどでセントーサ島へのケーブルカーの駅があるマウントフェーバー公園に到着する。マウント(山)と言いながら、最高地点でも標高100メートルほど。大した坂ではないが、寝不足のせいで足が重い。
夜行便で早朝にシンガポール入りし、MRTでホテルに着いたのが午前7時。荷物だけ預け、すぐに虫撮りに繰り出したのだ。
もしかして、足が重いのは、機内で隣の席になった日本人の女子大生風2人連れに風邪をうつされたのか。女の子たちは、礼儀正しくていい子だった。これはラッキーと思ったら、1人はやたらとせきをする。ひょっとしてインフルエンザか。うつされたら悲惨だ。もう1人は何回もトイレに立つ。もしかすると、風邪の症状で腹を下しているのか。なるべく病原菌を吸い込まない体勢で眠った。
「すてきな女性からうつされた風邪のウイルスだから大切にしよう」などとは全然思わない。もともとの発生源は暑苦しいおやじ、いや、ひょっとすると豚インフルか鳥インフルかもしれないではないか。
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