海外虫旅では、泊まるホテル自体が虫撮りの拠点となり、作戦基地となり、虫と昆虫記者の生死を賭けた戦いの場となることが多い。従って、その選択は極めて重要である。ジャングルが近ければ近いほどいいし、ジャングルの中であればなおいい。タイのサイヨーク国立公園での宿も、ジャングルの中だった。(時事通信社 天野和利)
サイヨークと言えば、クウェーノイ川沿いの景勝地である。水上に並ぶ涼しげな山小屋風の宿泊施設「シャレー」に泊まって、ラフティング、カヌーなどの水遊びに興じるのが、正当なサイヨークの楽しみ方である。ここは典型的な水辺の観光地なのだ。
それでも昆虫記者は、あえてジャングルの中の宿を選ぶ。宿の名はホーム・フュ・トイ。たいていのホテルは「リバー○○」や「△△ラフティング」など、水辺にちなんだ名だが、ここは違う。いろいろ調べて、一番気に入ったのだ。まずは敷地の広大さ。そして、充実した散策路。ホテルの周辺での虫探しだけで、何日もかかりそうな環境なのである。
川を見下ろす高台のジャングルの中に位置し、プール、ホットスパもある。広い池の上にはロープが張られていて、フィールドアスレチックによくあるターザンロープの巨大版も楽しめる。泰緬鉄道関連の展示施設もあって、歴史の勉強もできるから、勉強熱心な昆虫記者にはぴったりである。つまり、虫撮りなどしない普通の観光客も十分に楽しめる施設をいろいろと備えているのだ。
しかし、夕方に宿に到着して最初に目に入ったのは、幽霊列車だった。旧日本陸軍が建設した死の鉄道、泰緬鉄道を走っていた列車が、ぼろぼろに朽ち果て、ジャングルの中にたたずんでいた。近くに白骨が散らばっていてもおかしくない。突然貨車の扉が開き、すり切れた軍服を身にまとい銃剣を手にした旧日本軍兵士の亡霊の一団が現れても、全く違和感のない風景である。夜中に1人で歩くのはかなり怖そうだ。耳なし芳一の怪談に出てくる平家の亡霊を思い出して、泣きだしてしまいそうだ。
しかしなぜ、ホテルの敷地内に、こんな恐ろしげな幽霊列車があるのか。実は、ホテルの泰緬鉄道展示施設の目玉なのである。だが、カンチャナブリの町の博物館などに展示されている、きれいに塗り直された列車と違い、ここの機関車はさびだらけで、今にも崩れ落ちそうだ。
戦時中からずっと放置されていたらしく、歴史を感じさせる効果は抜群なのだが、迫力があり過ぎて、恐ろしさも倍加されている。
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