タイの虫旅は死の鉄道に乗って
 昆虫記者のなるほど探訪

泰緬鉄道で「戦場にかける橋」へ

 6月下旬、早めの夏休みを取った昆虫記者は、軽快なリズムのクワイ川マーチを鼻歌で奏でながら、タイ・カンチャナブリ県のクワイ川(タイ語風にはクウェー川)鉄橋を歩いて渡っていた。上空には鳥のように大きな蝶(チョウ)、キシタアゲハが舞っている。早朝なので、人っ子一人、猫の子一匹いない。確かに人はいないし、猫もいないが、野良犬が3匹も歩いている。(時事通信社 天野和利)

 とりあえず、3匹の犬の後をついて、ゆっくりと橋の上を進む昆虫記者。対岸の緑生い茂る河川敷には、いろいろな蝶が飛び交っている。早く行って写真を撮りたい。だが、足は前に進まない。なぜ急がないのか。それはもちろん、犬が怖いからである。野良犬は大の苦手なのだ。

 たかが野良犬と思う人もいるだろうが、歯をむき出して襲って来たらどうする。ここは逃げ場のない橋の上だ。かみつかれたらどうする。鉄橋から川に飛び込むしかないではないか。犬たちの機嫌を損ねないよう、まるで犬の存在に気付いていないかのように視線を空に向けながら、クワイ川マーチの鼻歌を歌って、のんびり歩く。

 クワイ川マーチと言えば、言わずと知れた名作映画「戦場にかける橋」のテーマ音楽である。クウェー川鉄橋建設のため捕虜として過酷な労働を強いられる英国兵士らの口笛が印象に残っている人も多いだろう。だが、舌の短い昆虫記者は悲しいことに口笛が吹けないので「ピピッ、ピピピ、ピッピッピー」とはならない。鼻歌だから「フフ、フフフ、フフフーン」となってしまう。

 タイのクウェーヤイ川には、今も旧日本陸軍が建設した「戦場にかける橋」クウェー川鉄橋があり、タイ国鉄の南本線ナムトック支線の列車がその上を走っている。第2次世界大戦中の日本軍の物資輸送路として、突貫工事で完成させた泰緬(たいめん)鉄道、ビルマ=シャム鉄道の一部は、名前を変えて、今も現役で人々を運んでいるのである。

 普通の観光客はバンコクのトンブリー駅から西進し、クウェー川鉄橋駅へ向かうのだが、昆虫記者は支線の西端に近いナムトック駅から東進し、鉄橋へやって来た。なぜなのか。答えは簡単。虫の少ない大都会のバンコクではなく、虫の多いジャングルが広がるナムトック側に宿を取っているからである。

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