マレーシア最大の国立公園「タマンネガラ」を訪れる一般観光客にとって、ナンバーワンのアトラクションは、全長400メートル以上という長大なキャノピーウオークである。昆虫記者も人の子であるから、人並みに大衆的アトラクションにも興味があるのだ。(時事通信社 天野和利)
キャノピー(樹冠)とは、森の緑の屋根である。悲しいかな、人間は鳥のように飛ぶことはできないため、屋根の上の世界を見ることは難しい。だから、キャノピーウオークがある。ジャングルの数々の巨樹を支柱にして、その間をつり橋で結んだようなキャノピーウオークは、上から森を見たいという、鳥になりたいという、人間の強い欲望のなせる構造物だ。タマンネガラのキャノピーは、マレーシア屈指の規模を誇り、地面からの高さは40メートルもあるという。これはもう期待に胸が膨らむではないか。まるで、豊胸手術をしたかのように、はち切れんばかりに、胸が膨らむ。
タマンネガラに来たからには、キャノピーに行かないという選択肢はないのだ。みんなが行くのに行かないと、話が合わないし、仲間外れにされるし、変人扱いされる。ブリュッセルに行って小便小僧を見ないとか、シンガポールに行ってマーライオンを見ないとかと同じだ。どんなにがっかりするものであったとしても、見ずに済ませるわけにはいかないのだ。でないと、「ねえ、ねえ、見た? あれ、がっかりだったよねー」という会話に参加することすらできないのだ。もちろん、広大なジャングルに設けられたキャノピーだから、すてきな虫が待っている可能性も大であり、世界3大がっかり的な展開には決してならないはずだ。天女の羽衣のように美しい熱帯の珍虫ビワハゴロモにも久しぶりに遭遇するのではないか。何となく、そんな運命的出会いの予感がする。
3月某日。日本で調べた天気予報では、タマンネガラは連日雨のはずだったのだが、現実は晴れ続き。きょうも快晴、気分がいいぞ。では、気分がいいついでに、キャノピーウオークに出掛けるか。まずはバイキング形式の朝食をガツガツ食べて、エネルギーを補充する。宿泊料は朝食込みなので、朝食は「ただ」みたいなものだ。逆に言えば、食べないと大損である。朝食をたらふく食べておけば、昼食代を浮かせるし、ひいては夕食も軽く、安いもので済ませることができる。すべては、食べ放題の朝食をどれだけ食べられるかにかかっているのだ。
たっぷり食べて、腹はパンパン。もう食えないぞ、というところで、意気揚々とキャノピーを目指す。
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