闇に潜む魔物たち タイ・カオヤイの旅3
 昆虫記者のなるほど探訪

巨大ヤモリ「トッケイ」の襲撃

 タイの高原リゾート「カオヤイ」の虫三昧のホテル「アイヤラ・リゾート」の夜は、カブト、クワガタなど大物の来客が多い。大物がこれだけいれば、蛾を中心とした小さな虫たちは、とてつもない数が飛んで来るはずだ。しかし、なぜか小物の姿はほとんどない。電灯に照らされた白い壁は、本来なら蛾だらけの芸術的モザイク模様になっているはずだが、まるで花嫁衣装のような汚れのない純白のまま。実に不思議だが、その謎はやがて解明されるのである。(時事通信社・天野和利)

 夜の虫探しをしていると、突然、「トッケイ!」という大声が背後から響く。昆虫記者の不審な行動が、ホテルの従業員に見とがめられたのか。ドキッとして振り返る。しかし、誰もいない。別にやましいことは何もないのだが、夜な夜な懐中電灯を持って、ホテルの廊下や、壁をじろじろ見回していれば、のぞき魔、痴漢、変態と思われても仕方がない。

 心臓のバクバクがやや落ち着いたところで、再び虫探しを始める。ただでさえ夜は怖い。小さな物音にもビクビクする。そして、しばらくするとまた「トッケイ!」。

 明らかに日本語ではないし、英語でもない。ではタイ語か。「オイお前、そこで何をしている」という意味のタイ語かもしれない。尋問された際の言い訳を考えていると、また「トッケイ!」。今度は頭上からだ。慌てて懐中電灯を向けると、そこには体長30センチ近くある巨大なヤモリが。体には水ぼうそうのような赤い斑点がたくさん。不気味な姿だ。そうなのだ、トッケイと叫んだのは、このヤモリなのである。その名もズバリ、トッケイヤモリと言うのである。

 小さなヤモリはうじゃうじゃいるし、この巨大なトッケイヤモリも各フロアに1匹ぐらいずついる。それが、小さな虫たちをバクバク食べているのだ。カブト、クワガタクラスの大物以外は全て、この大小ヤモリ軍団に食べられてしまうのであった。ヤモリは南国の宿には欠かせない、無償奉仕の働き者の掃除屋なのだ。

 恐らくトッケイヤモリは、昆虫記者に向かって「オイ、俺の餌を横取りするんじゃないぞ」と威嚇していたのだろう。巨大ヤモリが腹をいっぱいにするには、相当な数の虫が必要となる。床や壁を縦横無尽に走り回り、食べて食べて食べまくっているのである。

 加えて、早朝には、南国版ムクドリの「インドハッカ」などの鳥も虫を食べにやってくる。ここでも昆虫記者との激しい競争が展開される。しかも、ヤモリや鳥は、生活が懸かっている。腹を満たすため必死なのだ。これに対して昆虫記者は、虫を撮れなければ首をつらなければならないほどハングリーではない。命懸けのやつらには勝てないのである。

 そんなわけで、小さな蛾の収穫は今一つ。スパイダーマン以上のすさまじい戦闘能力を持つヤモリ軍団に、昆虫記者ごときが勝てるはずはないのである。

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