タイ・カオヤイ国立公園周辺は「タイの軽井沢」とも呼ばれ、大都会バンコクの人々にとっては超有名な避暑地である。ゴルフ場やおしゃれなショッピングセンター、ワイナリー、観光牧場などもあり、2015年7月には、何とシーニカル・ワールドなるテーマパークまでできてしまった。公園の北の玄関口であるパクチョンには、ピンからキリまで、さまざまなホテルがあり、バンコク駐在の日本人ビジネスマンら多くの避暑客はピンの方の豪華ホテルに泊まって、華麗なる高原ライフを楽しむのである。そんな軽井沢派の人々にとって、国立公園自体はオプショナルツアーでちょっと立ち寄るだけのアトラクションの一つであり、汗みどろのドロドロ、ヘドロのようになって一日中歩き回る場所ではない。(時事通信社 天野和利)
一方、昆虫記者が選ぶのは、限りなく国立公園の近くにあり、昆虫環境がピンのホテルである。設備の充実度とか清潔度とかはキリでも構わないし、値段はもちろん相当にキリの方でなければならない。
だから、今回選んだホテル「カオヤイ・アイヤラ・リゾート」にも、設備面では全く期待していなかった。しかし、それでも夕飯ぐらいは食べられるだろうと思っていたのである。
今回の旅行も節約のため格安航空を利用し、機内の昼食を抜きにしたので、夕刻にホテルに到着した時には、もう腹ペコだ。ぽっちゃり系のホテルの女性マネジャー、オラーナさんに空腹を訴える。しかし、ホテルのレストランが提供する食事は朝食のみ。ホテル内には売店もないという。「近くにレストランはないのか」と尋ねると、「1キロ歩けば」との答え。1キロなんて、普段ならほんのひとまたぎの距離だ。しかし、この時の昆虫記者には「重き荷を負いて遠き道を行くがごとし」という徳川家康の人生訓のように思われた。もはや10メートルでも歩く気力はなかったのである。
「やはり、設備も値段もピンの方のホテルを選ぶべきだったのか」などと、空腹で意識が薄れていく中で、つぶやいたのであった。
だが、こうした絶望感は、やがて荒波のように押し寄せる感動のお膳立てだった。この値段的にはキリのホテルは、瀕死(ひんし)の昆虫記者を見殺しになどしない、人間愛に満ちたホテルだったのである。そして、昆虫記者の想像をはるかに超える昆虫愛に満ちあふれた奇跡のホテルでもあったのだ。
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