今回のタイ・カオヤイ国立公園の旅のメインターゲットは、ゾウの糞(ふん)、および糞に集う虫たちである。カオヤイは、ゾウをはじめとした野生動物の宝庫。ということは、糞虫の天国ということになる。ゾウは一日に50キロぐらいの糞をするという。広大なカオヤイの森には200~300頭の野生のゾウがいるというから、その糞の合計量はものすごいことになる。想像するのも恐ろしい。気分が悪くなるから、想像などしない方がいい。(時事通信社・天野和利)
地上最大の動物であるゾウ。その糞は、一つ当たり1.5キロ前後の重さがあるらしい。そんな巨大な糞と格闘する糞虫は、その名もオウサマ(王様)ナンバンダイコクコガネとか、テイオウ(帝王)ダイコクコガネとか、いかにも偉そうだ。そして、虫としては、相当に巨大だ。日本のカブトムシなど蹴散らしてしまいそうな迫力なのである。
格安航空でバンコクへ飛び、カオヤイのホテルまではタクシーで2時間。ホテルに1泊した後、レンタカーを借りて公園へ。何はともあれ、まずはゾウの糞探しだ。広大な公園内を気分よくドライブ。色とりどりのチョウが飛び交う道端には、たくさんの糞が落ちていて、昆虫記者の興奮度を高める。しかし、たいていは車にひかれてぺちゃんこになっている。これでは、下に虫がいたとしても、糞と一緒にぺちゃんこだろう。
では、どこを探すか。「野生ゾウに注意」の警告標識が立つ草原のトレッキングコースを歩くと、所々に、赤茶けた土がむき出しになった広場のような場所がある。これは動物たちが、ミネラルや塩分を補給するため土をなめたり、食べたりする場所なのだ。そんなところには、必ずおびただしい量の糞がある。そしてその周囲を見回すと、ゴルフ場のグリーン上のカップのような大きな穴があちこちに開いている。これこそは巨大糞虫が開けた穴なのである。
新しい糞の下にある穴なら、中に虫が潜んでいる可能性があるが、国立公園の地面をむやみやたらに掘り返すわけにはいかない。それに、ダイコクコガネの仲間は夜行性のものが多いので、昼間に糞のそばで待っていても、奴らが飛んでくる可能性は低い。さらに付け加えれば、昼間にこんな場所に一人で長居するのは、極めてデンジャラスなのである。ふと気付くと、昆虫記者の周囲には、月面クレーターのようなゾウの足跡が幾つもあるではないか。いつどこから、巨大なゾウが牙をむいて迫ってくるか分からないのだ。
「お願いだから、ゾウに踏みつぶされるなんていう、恥ずかしい死に方だけはしないでね。笑い話にもならないから」。旅立ち前の妻の冷たい言葉が思い起こされる。
何やら不穏な空気を感じ取った昆虫記者は、たった一人、トレッキングコースを引き返す。その時、「待ってました」とばかり、茂みから現れたのは一頭の雄ゾウ。昆虫記者に好意を持っているのか、一直線にこちらに近づいてくる。「こっちはそんなに好きじゃないから、寄ってこなくていいよ」と言っても、聞き入れる様子はない。慌てて、100メートルほど離れたウオッチングタワー(観察小屋)に逃げ込んだのであった。
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