オーストラリアのケアンズ周辺には、幸せの青い蝶「パピリオ・ユリシス」が飛び交っている。1日に3度見た人は、もれなく幸せになれるという、ありがたい蝶だ。「茶柱が立つ」とか、「一富士二鷹三なすび」みたいな、よくありがちな験担ぎである。日本では、奥菜恵さん主演の映画「ユリシス」で、ストーリーの軸になっているので、虫好きでなくてもこの説を知っている人が結構いるらしい。しかし、奥菜さんと共演の斎藤工さんが、ユリシスを3回目撃したかどうかは、昆虫記者の関知するところではない。(時事通信社・天野和利)
この蝶の和名は「オオルリアゲハ」。熱帯の青い海のような輝きを持つ羽は、目がくらむほど美しく、幸せ伝説が作られるのも当然と言える。
しかし、そんな伝説を詳細にチェックしてみると、拡散しているのは主に日本人観光客の間でだけで、地元ではあまり聞かれない。英語で調べてもヒットしないので、和製伝説である可能性が高い。しかし、和製でも、豪製でも、合成でも、何でもいいのである。信じる者は救われる。イワシの頭も信心からである。
幸せに飢えた昆虫記者が、今回のオーストラリア旅行で絶対に達成しなければならない目標が、このユリシスを写真に収めることだ。だが、無計画に歩き回っても、ユリシスに会える保証はない。ならば、姑息(こそく)な裏技を使うしかない。ケアンズ近郊の観光地キュランダの蝶園「オーストラリアン・バタフライ・サンクチュアリ」に行けば、絶対確実にユリシスに会えるのだ。この蝶園は、エンブレム自体がユリシス、ホームページのトップがユリシス。つまり、一番の目玉がユリシスであるから、蝶園の中では、数え切れないほどのユリシスが、幸せを振りまいているに違いないのである。
実は昆虫記者は、はるか昔の新婚旅行で、キュランダを訪れたことがある。その時に熱帯雨林の上を高速で飛ぶ、青く輝く大きな蝶をちらっと目撃した。あれが幸せを運ぶ蝶ユリシスだったのだ。だが、蝶の姿はあっという間に視界から消えた。結婚という人生の新たなステージのスタート地点で既に、幸せをつかみ損ねていたのである。今回同じ失敗を繰り返すわけにはいかないのだ。
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