あれは2003年の夏、息子がもうすぐ4歳という頃。マレーシアの首都クアラルンプールから100キロ、2時間弱でたどり着ける高原保養地フレーザーズヒルでの「マレーシア昆虫教室」に家族仲良く参加したのだった。(時事通信社・天野和利)
当時昆虫記者はシンガポール特派員。家族旅行のついでに「夏休み向け記事の取材」も片付けてしまおうという算段であった。今になって考えると、あれが昆虫関係の初めての取材、つまり「昆虫記者としての初仕事」だったことになる。
古いアルバムを引っ張り出して「あの頃はよかったなー」と、遠い過去を懐かしむ。小さな子供の存在は、つかの間の平和をもたらし、家庭は愛と希望に満ちあふれ、笑いが絶えなかった。が、それもすべて、今は昔である。「あの素晴らしい愛をもう一度」と歌ってみても、時間は逆戻りしない。
そうだ、今年の夏こそは、あの昆虫記者の原点であるフレーザーズヒルに行ってみよう。何かが変わるかもしれない。
しかし、息子は塾の特別講習やら、高校の宿題やらに追いまくられて、南国での1週間のバカンスなどという余裕は全くないという。
結局は昆虫記者一人だけの寂しい感傷旅行に。やはり、そう簡単には家族の絆は復活しないのである。まあ、昆虫記者の本心は、昆虫天国でカブト、クワガタ、カメムシ、ハムシ、ケムシ、イモムシなどと思う存分遊ぶことなので、実は家族愛の復活などはどうでもいいのであった。
日本ではフレーザーズヒルの知名度は低いが、大都会クアラルンプールに暮らす人々にとってここは、安近短の超お手頃な避暑地である。そして、昆虫記者にとっては、「アジア最大のカブト虫であるコーカサスオオカブト、カブトに負けず劣らず巨大なテナガコガネ、金色に輝くオウゴンオニクワガタ、ワシントン条約で保護されたマレーシアの国チョウのアカエリトリバネアゲハ」などの生息地に他ならない。
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