横浜市の金沢文庫駅近くから、一度も車や信号機に妨げられることなく、鎌倉の建長寺や名月院まで、約10キロも虫だらけの緑の中を歩き続けられることをご存じだろうか。都市化が進んだ神奈川県沿岸部にまだこんな場所が残されているとは、信じがたい夢のような話だ。(時事通信社・天野和利)
公式にはこの道は、六国峠ハイキングコース、鎌倉天園ハイキングコースと言う。しかし、この二つの連続したハイキングコースは「横浜・鎌倉昆虫バイパス道路」とも呼ばれる。勝手にそう名付けたのは、むろん昆虫記者である。尾根道の木々の間からは、時折遠くに横浜と鎌倉の街並みが見える。この道は、人混み、騒音、排ガスなど、すべての邪魔物を迂回(うかい)し、緑と昆虫の世界に没頭できる長大なバイパス道路なのだ。そして、横浜側を出発点とすれば、終着点の建長寺裏には、名著「バカの壁」や昆虫趣味で有名なあの養老孟司氏が建立した神聖な「虫塚」が待っている。昆虫道路のゴールとして、これ以上ふさわしい聖地はないではないか。
この昆虫道の入り口は、数えきれないほどあるが、横浜側で分かりやすく便利なのが、動物園、ローラーすべり台などお子さま向け施設の整った金沢自然公園だ。氷取沢市民の森、瀬上市民の森、横浜自然観察の森などを含めた横浜側の広大な緑地は、まとめて「横浜つながりの森」と呼ばれ、その面積は何と700ヘクタール、東京ドーム150個分にもなる。
六国峠ハイキングコースは、この横浜市最大の緑地のど真ん中を貫く。網の目のように張り巡らされた周辺の散策路の一つは、そのものずばり「ビートルズ(昆虫)トレイル」と呼ばれる。これは横浜市文化観光局発行の「横浜つながりの森マップ」にちゃんと掲載されている名前なのだ。昆虫記者の勝手な創作ではないのである。
虫好き仲間たちと、わいわいがやがや、にぎやかに楽しむには、この横浜側がいい。道幅が広く、休憩所、小川、市民農園などがあちこちにあって、人通りも多い。自然観察の森などでは動植物の採集は原則禁止だが、撮影や観察は大歓迎。なにせ観察の森である。「ウワー、カブトムシ!」「ギャー、毒虫!」などと大騒ぎしても、眉をひそめられる程度で、逮捕されることはない。
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