昆虫記者は草食系である。しかし、肉食系が嫌いなわけではない。特に「かわいい顔して実は肉食系」というのは、かなり好みだ。そんな、かわいい肉食系の代表はテントウ虫であろう。
チェリッシュが歌った名曲「てんとう虫のサンバ」に合わせるかのように色とりどりのテントウ虫たちが踊り出す。啓蟄を過ぎ、菜の花の香りとともに、そんな季節がやってきた。何とかわいい姿なのか。レディーバグ(貴婦人の虫)と呼ばれるのも納得だ。まさにパーティードレスに身を包んだレディーではないか。
ところが、そんなテントウ虫の多くは肉食。毎日、毎日、数えきれないほどのアブラムシやカイガラムシを襲って、むさぼり食う。テントウ虫が益虫と呼ばれるのはそのためだ。
テントウ虫は幼虫時代から、有能な殺し屋として知られる。虫眼鏡や、マクロ機能付きのカメラで覗き込めば、殺害シーンを目の当たりにすることができる。それは、キツネがウサギを襲い、その肉を切り裂くシーンと大差ない。しかし、キツネはずる賢いが、テントウ虫は愛らしい。ウサギはかわいいが、アブラムシはゾッとする嫌われ者。だから、テントウ虫が獰猛な肉食生物であることは忘れ去られる。
アカホシテントウは梅の木を台無しにするタマカタカイガラムシという害虫を退治する。ナナホシテントウはあらゆる園芸植物の敵であるアブラムシを食べまくる。キイロテントウは、草花の葉を枯らすウドンコ病菌が好物。大型のカメノコテントウは、木の葉を穴だらけにするハムシの幼虫を食べるのだ。
だから農家や園芸家は、肉食テントウを見るとサンバを踊りだしたくなるのだ。そして、アブラムシ、ハムシ、カイガラムシといった無防備な被害者たちは、抵抗する術もなく、次々に食われていくのである。しかし、もちろん、こうした被害者を憐れむ必要はない。彼らはとてつもない繁殖力で、あっという間に勢力を回復し、再び農作物や草花を台無しにするのだから。
種類は少ないが、ニジュウヤホシテントウのように草食のテントウ虫もいる。しかし、彼らは肉食のナナホシテントウ、ナミテントウのように愛されない。ジャガイモ、ナスなどの害虫として忌み嫌われているのだ。何と理不尽なことか。人間の価値判断からすると、肉食のテントウこそが正義、草食のテントウは悪なのだ。
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