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孤独死に備える

不安も「ただの課題」に

 「一人で死ぬこと」が当たり前の社会。その中で生きていく我々には、どのような心構えが必要か。これまで「葬儀相談員」として計5000件を超える相談に対応し、人の死に寄り添ってきた市川愛さんに話を聞いた。市川さんは葬儀社を紹介するエージェント企業に勤務した後、第三者的な立場で葬祭関連のサポートを行う葬儀相談員として独立。現在は人生の終わりに向けた活動、いわゆる「終活」の普及などにも携わっている。著書に「孤独死の作法」などがある。

 「家族にみとられて亡くなるなんて、今ではもう『ファンタジー』ですね」と語る市川さん。葬儀に関わる中、孤独死は「もはやスタンダード」と肌で感じている。一方で「孤独死は、寂しいことでも、悲しいことでもない」と考える。例えば、一人夕食を食べ、床に入り、眠り落ちて、そのまま目を覚まさなかったとして、それが苦しまない安らかなものであれば「悪い死に方」ではない。むしろ「理想の死に方」と感じる人も多いだろう。

 逆に「『誰かにみとってもらうことが幸せだ』と決め付けるのは悪いこと」と指摘する。市川さんによると、孤独死のケースでは、救急車や警察車両が集まるので、近隣住民らの好奇の目にさらされ、「あらぬうわさ」を立てられることも少なくない。ある一人暮らしの高齢女性が亡くなったケースでは、「孤独死させるなんて酷いわね」と、残された娘が心無い言葉を近所の人から浴びせられた。娘はいつも高齢の母親を気に掛け、「一緒に暮らそう」と誘っていたにも関わらずである。「たぶん女性は幸せだったと思う。それを『孤独死』ということだけでバイアスをかけるのは間違っている」と市川さんは語気を強めた。

 自分に「もしも」のことがあったときに備え、「エンディングノート」も薦めている。ノートにはまず、残された人に迷惑を掛けないよう「最低限の情報」を記載。具体的には、自分の氏名や生年月日、携帯電話番号やメールアドレス、各種保険証の種類と番号、経歴、現在所属している団体、友人などだ。そのほか、これまでの人生やライフスタイルについて振り返り、自由に自分が考えてきたこと、伝えたいことなども記しておけば、残された人が故人の思いを知る手がかりにもなる。

 市川さんが葬儀相談員として活動を始めた当初、「死」を話題にすることがタブー視される場面は少なくなかったという。それが最近は、自治体の主催で孤独死テーマにした講演会などが開かれ、大勢が参加するような状況になっている。「終活」もブームで、「死」を直接的に考える人が増えている現状だ。

 「死について具体的に考えると、不安が解消する」と市川さんは力説する。自分の最期のときを思えば、やはり不安を感じるものだが、その不安の正体は「『よく分からない』ということ」なのだという。自分が置かれて状況をしっかり見つめ、このまま最期のときを迎えるとどうなるか、具体的に想像力を働かせて考えれば、「よく分からないこと」が少なくなり、不安もただの「課題」になる。

 「自分が孤独死したらどうなるか」。しっかりと考え、冷静に準備をしていけば、漠とした不安も解消するのだろう。孤独死に備えること、それは「よく生きる」ことにもつながるのかもしれない。

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