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「孤独死」に備える

「公衆衛生」の観点を

 日本社会には今、どのような孤独死対策が必要か。淑徳大学総合福祉学部の結城康博教授に話を聞いた。社会福祉士、ケアマネジャーとして自治体での勤務経験も持つ結城氏は、福祉や介護の現場に精通している。著書に「孤独死のリアル」などがある

 結城氏は2013年1月、ある政令市で民生委員952人を対象にアンケート調査を実施した。その結果、「孤独死のケースに関わったことがある」と回答した民生委員は約20%、5人に1人にも上ることが分かった。「2、30年前だと孤独死というのは相当『特異な死』で、新聞にも載るものだったが、この10年間ぐらいで、珍しいものではなくなっている」と結城氏。さらに「65歳以上のお年寄りだけではなく、現役世代の一人暮らしも孤独死があり得るということを知ってほしい」と警鐘を鳴らす。

 近年、孤独死は40、50代の現役世代にも広がっている。結城氏はそれについて、「5つの要因」を示した。まず第一に「結婚していない人、家族を持たない一人暮らしが非常に増えていること」。そして二つ目は「非正規雇用や派遣社員の増加」である。かつては、例えば社員が無断で欠勤した場合、会社の人間が家まで様子を見に来るような「家庭的な雰囲気」があったが、フリーターや非正規社員が増えたことで「会社がそこまで個人をみるということがなくなっている」という。

 三つ目に指摘するのは「『お一人さま』の浸透」だ。「一人カラオケ」や「一人焼き肉」といった言葉が定着して久しいが、「別に無理して誰かと一緒にいなくていい」「敢えて友人関係を作る必要はない」と、自ら人との関わりを持とうとしない人間が増えている。そして四つ目は「親との関係の希薄化」。最後には「組織の中で生きていくのが苦手な人間が増えている」ことを挙げた。

 「孤独死対策の最も重要なキーワードは『死の社会化』ではないか」と結城氏は語る。日本では従来、「死をみとるのは家族」という意識が強かった。しかし一人暮らしの人、結婚しない人が急増した結果、家族に代わって「社会」が死を受け止めなければならない状況が発生している。「埋葬まで社会全体で対応していくシステムの構築の必要性を、すべての人が自覚する必要がある」との考えだ。

 一方、一人暮らしの高齢者を対象とした見守り活動や安否確認など、地域の福祉政策としての孤独死対策には「限界があると思う」。結城氏の経験によれば、「安否確認などに行って、玄関から出てきてくれる人は、孤独死になって何週間も発見されないというようなことにはならない」。問題は、民生委員や自治会の人間が定期的に訪れても「まったく出てこないような人」だが、「出てこない人」に対応しようとしても、個人情報保護法などプライバシーの問題が大きな壁となり、介入困難なケースが多い。そこに限界があると指摘する。

 「孤独死対策は地域福祉的な側面で考えられがちだが、公衆衛生的なところで行政が介入するべき」と結城氏は訴えた。このまま孤独死が増加し、長期間放置される遺体も多くなれば、衛生管理上の問題が発生する。例えばポスターやビデオなどを用いて、腐敗遺体による被害を示すなど「思い切った方法で啓発することも必要なのでは」と話した。

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