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「孤独死」に備える

「無縁遺骨」が年間100体

 生前の沢田さんは、福祉や介護のサービスを受けておらず、民生委員らを含め定期的な訪問者はいないようだった。そうしたケースでは死後数週間、場合によっては数カ月と発見が遅れることも多いのだが、2日程度で発見され、夏の暑い時期だったにもかかわらず、エアコンの冷気によって遺体も腐敗を免れた。誰にもみとられることなく1人で亡くなった沢田さんだが、いわゆる「悲惨な孤独死」は避けられた形だ。

 葬儀関係者によれば、死後数週間以上経った孤独死の現場は、傷んだ遺体に充満する腐臭、害虫の発生などで凄惨(せいさん)を極める。原状回復に床や畳の張替え、風呂やトイレのリフォームなどが必要となり、賃貸住宅であれば、多額の費用が貸主の負担となることも少なくない。

 木村さんによると、沢田さんの部屋に残されていた物品は、廃品回収業者が車2台でやってきて、家財道具から何からすべて持っていった。費用は約15万円。家主の木村さんの負担となったが、家賃の滞納はなく、当月分も支払い済みだった。その後は「その部屋を貸す気にならなかった」そうで、ずっと空き家のままに。そして結局、2015年12月に長屋を解体し、更地のままで現在に至る。

 ところで、親族が引き取りを拒否した沢田さんの遺体は、その後どうなったのか。「墓地、埋葬等に関する法律」は、「死体の埋葬または火葬を行うものがないとき、または判明しないときは、死亡地の市町村長が、これを行わなければならない」と定めている。沢田さんが住んでいた埼玉県内のA市では、生活保護法の規定などに準じ、市が選定した葬祭業者が①遺体の搬送(医療機関、警察署から遺体を引き取り安置する場所まで搬送。安置した場所から火葬場へ搬送)②死亡診断書、死体検案書の受領③死亡届の提出④火葬の予約⑤遺骨の搬送-などを行っている。

 火葬後、引き取る人がいない「無縁遺骨」への対応は、自治体によって異なるが、同市の場合、骨壷に収めた上で市内に4カ所ある市営霊園の合葬施設で保管する。統計が残っている03年度中、新たに納骨された無縁遺骨は44件で、引き取り手が現れたケースが11件あったが、それから10年後の13年度は、納骨が128件と大幅に増加し、引取りは8件に止まった。近年は、納骨数から引き取り件数を引いた純増数が100件程度で推移しており、03年に431件だった保管累計は1200件を超えたという。沢田さんの遺骨も、その中にある可能性は高い。

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