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歌舞伎俳優になる! 道を開く若者たち

「まるちゃん」から莟玉へ新たな一歩

 歌舞伎は家柄や門閥がものをいう、世襲の閉ざされた世界だと思っている人も多いが、坂東玉三郎さんや片岡愛之助さんのように一般家庭出身者も少なくない。このほど師匠である中村梅玉さんの養子となった中村莟玉(かんぎょく)さん(23)もそんな一人。幼くして歌舞伎に魅せられ、自ら伝統の世界に飛び込んだ。意外と開かれている歌舞伎俳優への道。さまざまなきっかけで出合い、芸の継承と興行を支えている人々を追った。(文化特信部・中村正子)

 11月1日、東京・歌舞伎座。「吉例顔見世大歌舞伎」が初日を迎えた。夜の部の1幕目は「中村梅丸改め初代中村莟玉披露狂言」と銘打たれた「鬼一法眼三略巻(きいちほうげんさんりゃくのまき) 菊畑」。源氏再興のため秘伝の兵法書を手に入れようとする牛若丸らの肚(はら)の探り合いを描く。奴虎蔵(実は源牛若丸)に扮した莟玉さんが花道から登場すると大きな拍手と共に「高砂屋!(中村梅玉一門の屋号)」の掛け声。劇中口上で「なお一層芸道に精進して参る所存にございます。何とぞご指導ご鞭撻のほど、ひとえにお願い申し上げ奉ります」とあいさつし、新たな一歩を踏み出した。

 目鼻立ちのくっきりした端正な容姿。前名の中村梅丸から、先輩俳優やファンには「まるちゃん」「まるる」と呼ばれてかわいがられてきた。かれんなお姫様や町娘など女形で注目され、最近では人気漫画を基にした新作歌舞伎「NARUTO―ナルト―」の春野サクラを好演したが、養父となった梅玉さんが得意とする若衆(わかしゅ、前髪立ちの美少年)役を丁寧に演じて、後継ぎとしての決意を示した。

 莟玉さんは、幼い頃にテレビで歌舞伎を見て引き付けられた。劇場での初観劇は2歳の時。東京・歌舞伎座の3階席で母の膝の上から舞台を見詰めた。将来の夢を問われれば、「ウルトラマンか電車の運転手か歌舞伎俳優」と答え、大人たちから「ウルトラマンと同じくらいなれないと思うよ」と言われても、気持ちは変わらなかった。「きょうは歌舞伎に連れて行ってあげると言われて、(歌舞伎座がある)東銀座駅の狭い階段を上がると、徐々に劇場が見えてくる。あの時のうれしさって、絵に残るぐらい。舞浜でディズニーランドが見えてきた時と一緒です」

 休憩時間中、観客が通り抜けられるようじゅうたんが敷かれた花道の上で見得を切って遊んでいると、周りの人から「歌舞伎が好きなんだね」と言われたことも。1階席を買ってもらった時には、揚げ幕の近くで役者の登場をわくわくして見守った。「僕が変わった子どもだったというだけではないと思う。何も理屈が分からない子がパッと来ても、『ここ、何か楽しい』と思えるということは、歌舞伎が培ってきた大事な要素です」

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