どこの国にも、その国に特有の「匂い」があるという。経験を十分に積んだ酒飲みには直感というのか、その土地の空気を最初に吸った瞬間に「これはさぞかし美味(うま)い酒が飲めるに違いない」という期待が高まることがあるらしいが、この時がまさにそうであった。
アイルランド南部の中心都市コークの空港に降り立ち、外に一歩を踏み出した時に感じたのは強烈な「草の匂い」。まるで早朝の牧場にいるような、少し湿り気を帯びたむっとする匂いと説明すれば分かってもらえるだろうか。
実際、この国はどこまで行ってもヒツジたちが霧雨の中、緑の草を食(は)む光景ばかりがあきれるほどに続くのだ。少し肌寒い空気に心地よさを感じながら、私は旅路を急いだ。
ヨーロッパの西の果て、ヒツジとギネスとウイスキーが国土の大部分を覆っているという伝説の島、静かなる緑の国のアイルランドを南から北へと縦断し、各地の酒を飲み歩く旅をした。
(文・写真=写真部・落水浩樹)
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