イエメンはアラビア半島の南端にあり、旧約聖書の「シバの女王」の国という説もある。シバの女王は紀元前10世紀、豪勢な贈り物を携えソロモン王のヘブライ王国にやってきた。古来から海上交易の中継点として栄えていたと考えられ、現在も北方の産油国サウジアラビアに匹敵する人口2500万人が暮らしている。しかし、今のイエメンは女性に対する厳しい差別が残る中、各地で戦闘が発生し、世界の国際テロ組織アルカイダ系の中でも「最強」と評される武装勢力「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」の拠点となった。一体どうなっているのか。現地に駐在する国連世界食糧計画(WFP)イエメン事務所のビショウ・パラジュリ代表が来日したのを機会に現状を聞いた。(時事通信社外信部・松尾圭介)
「シリアとは違う」。イエメンで暮らしてみてパラジュリ代表が強く感じているのはこの点だ。米軍の無人機が参加しているとみられる大規模な空爆が展開され、各地で戦闘は続いているが「イエメン国民には問題を話し合いで解決しようとする賢明さが存在する」と代表は指摘する。対立各派が集まって交渉する古来からの文化が生きていて、これが機能している限り、政治の安定に向けた望みが失われることはない。
しかし、資源のないイエメンは中東の最貧国だ。国民の生活は苦しい。「人口の半分以上が食料不足で、すなわち子供の半数が慢性的な栄養不良だ」と訴える。
対立各派が政治の安定を模索しても、生活の改善が伴わなければ民心は離れてしまう。常に崩壊の瀬戸際にある政治対話を支えるには、大衆が抱える飢えの不安を緩和することが不可欠で「WFPが今行っている食料支援は、政治対話とコインの表裏の関係にある」と代表は訴える。資金繰りに追われながら日々の支援食料をどうにか確保してはイエメン各地に送り届ける毎日だ。
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