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新横綱を待ち受けるもの 「鬼」と「おしん」と稀勢の里

異例ずくめの昇進

 1月26日、新横綱稀勢の里が締める新しい綱を作る「綱打ち」が行われた。化粧まわしは、50年以上も前に、「土俵の鬼」横綱初代若乃花(のち二子山親方)が締めた物で、「鬼」が描かれている。稀勢の里を育てたのは亡くなった先代師匠、「おしん横綱」こと元隆の里の鳴戸親方で、その師匠が二子山親方だから、稀勢の里は「鬼」の孫弟子に当たる。

 土俵入りの指南役は同じ二所ノ関一門で雲竜型の土俵入りをした元横綱大乃国の芝田山親方。生前の「鬼」から直接伝授された大乃国の土俵入りは、堂々として定評があった。その極意が今また、稀勢の里に受け継がれていく。

 初場所14日目、初優勝が決まった稀勢の里が、テレビカメラの前で「うん、まあ、うれしいっス」と答えた仏頂面にも、力士たるもの勝ってむやみに喜ぶなという、先代師匠たちの教えを見た。

 それにしても、異例の昇進だった。先場所は優勝した鶴竜に星二つの差で12勝。優勝に準ずる成績ではないので、今場所は「綱とり」ではなかった。ところが、7連勝したあたりから「全勝なら横綱」の声が上がり、「1敗でも優勝なら」などとハードルが下がっていった。

 1986年の双羽黒も似たプロセスで、日本相撲協会と横綱審議委員会は、幕内優勝経験のない横綱をつくってしまったが、そうした例外を除けば、綱とりの重圧に打ち勝つことが条件の一つ。横綱になったら、とてつもない重圧がのしかかるからだ。

 稀勢の里は再三チャンスを逃している。自称「『稀勢の里を横綱にする会』会長」の北の富士勝昭さん(元横綱)も昨年秋場所後には「もう会長を辞めようか」と諦めかけていた。相撲協会は、これが最後のチャンスと見たかもしれない。推薦理由に昨年の年間最多勝や安定感も加えた「合わせ技」の昇進。直前2場所ばかりでなく、安定感を見るのはいいことではあるが。

 横審も、14日目に優勝が決まると、守屋秀繁委員長が千秋楽で白鵬に負けても昇進を容認するかのような発言をした。3横綱のうち2人が休場し、残る1人の横綱との対戦を不問にするような判断は、理解できない。大一番の前にそんなことを言えば、誰より相撲を取る力士が気の毒だ。諮問後の審議も10分ほど。まず今場所の横綱陣の体たらくに物言いを付け、そんな場所で昇進させて立派な横綱になれるのか、相撲協会に意見をぶつけ、考えを聞き、慎重に議論するのが、横審のあるべき姿ではないか。

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