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愛するということ~映画の向こうにパリが見える(8) 清岡智比古~
 白水社 月刊「ふらんす」

『パリ警視庁:未成年保護特別部隊』(2011)Polisse

写真:神戸シュン、装画:西川真以子、デザイン:Gaspard Lenski et 仁木順平

写真:神戸シュン、装画:西川真以子、デザイン:Gaspard Lenski et 仁木順平

監督:マイウェン
脚本:マイウェン、エマニュエル・ベルコ
出演:カリン・ヴィアール、ジョーイ・スタール、マリーナ・フォイス

 アルジェリア系フランス人の母と、ヴェトナム系ブルターニュ人の父を持つマイウェン。彼女が監督した『パリ警視庁 未成年保護特別部隊』(2011)は、たしかに警察ものではあるのですが、描かれているのはむしろ人間の業であり、悲しみであり、愛でもあります。今回はこの作品とパリの関係に注目してみましょう。

 パリ警視庁には、未成年者が関わった犯罪を専門に扱う「未成年保護特別部隊」があります。この部隊は、リーダーと10人の隊員から成るのですが、映画は、この部署に持ち込まれる苛烈な事件の数々と並行して、メンバーそれぞれの私生活も丹念に描きこんでゆきます。登場人物の多い群像劇なので、ここは予習を兼ねてメンバー紹介から始めましょう。

 ではまず5人の女性たちから。最初に注目すべきは、イリスとナディーヌの2人です。完璧さを求めるイリス――演じるのはユダヤ系の M.フォイス――は、あまりに深く仕事に没入し、一方では不妊によるストレスから、摂食障害に苦しんでいます。またナディーヌは、この潔癖なイリスの強い影響を受け、浮気した夫との離婚を果たしますが、やがて、ほんとうはまだ夫を愛していることに気づいてしまいます。また若いノラ、部隊で唯一のアラブ系ムスリマがいます。彼女が、女性の権利を軽視するアラブ人男性に(アラビア語で)食ってかかるシーンは圧巻です。(フランスの「アラブ」の幅の広さが垣間見えます。)さらには、男性隊員マチューと仲良しのクリス、レズビアンのスー・エレンもいます。

 男性は 6 人。まずはリーダーの「パパ」バルー。そしてアフリカ系の熱い男フレッドは、妻や愛する幼い娘とは別居中。イケメンの若いマチューはクリスと信頼関係にあり、あとは議論好きのガブリエル、右寄りの中年のバマコ、髭が特徴のベテラン、マルコ。これ11人です。

 ある日この部隊に、1人の女性カメラマン(=マイウェン)がやってきます。内務省から、この部隊の写真集作成を依頼されたのです。ただし、古くからの移民街ベルヴィルの出身である彼女メリッサにとってさえ、次々に持ち込まれる事件の激しさは想像以上でした。ここには、虐待、誘拐、暴行、売春、薬物など、暗澹たる現実が波立っています。もちろん隊員たちは、それでも懸命に、子供たちを保護するために力を尽くします。

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