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ホンダF1、「58分の1」の奇跡 30年ぶりワールドチャンピオン

ラストランで輝いたチームワーク

 アラブ首長国連邦(UAE)のアブダビにあるヤス・マリーナ・サーキットで12月12日に決勝が行われたF1世界選手権2021年最終戦、アブダビ・グランプリ(GP)。レッドブル・ホンダのマックス・フェルスタッペン(24)=オランダ=が、大逆転で自身初となるワールドチャンピオンの座に就いた。レースのほぼ全てを支配していたのはメルセデスの7冠王者、ルイス・ハミルトン(36)=英国=だった。チームワークで最強のライバルに立ち向かい、F1活動を終えるホンダにとってのラストランを土壇場の奇跡的な勝利で飾った。(時事通信運動部 佐々木和則)

◇ ◇ ◇

 改めて58周で争われた決勝ラップチャートを見てみる。グリッドはフェルスタッペンがポールポジション(PP)、ハミルトンが2番グリッド。ラップ1からラップ58まで、コントロールラインを通過した車番が記載されているが、ラップリーダーを取ったのは3ドライバーだけ。58周のうち、車番44のハミルトンが51回、車番11のセルヒオ・ペレス(メキシコ、レッドブル・ホンダ)が6回、車番33のフェルスタッペンは1回。断然トップのラップリーダーはハミルトンであり、フェルスタッペンがコントロールラインをトップで通過したのは、チェッカーフラッグが振られたレースフィニッシュの時、1回のみ。それでも、最後に首位でゴールしてワールドチャンピオンになった。

 ハミルトンは皇帝ミヒャエル・シューマッハー(ドイツ)を抜き去る歴代単独最多、8度目のチャンピオンを逃した。ホンダF1の田辺豊治テクニカルディレクター(TD)が常々話していたのは「レースは最後まで何が起こるか分からない」。それでも、サーキットの空間にいた多くの人々、世界中からライブ映像を通して大一番を見守っていた何億人かのファンの誰もが、最終周に起きた逆転劇は想像すらできなかったはずだ。

 それほどまでに、ハミルトンは勝利と8度目のタイトルに近づいていた。最終戦を残し、ドライバーズ選手権でタイトル可能性のある両雄は369.5ポイントで並び、優勝回数で9勝のフェルスタッペンが首位、前戦のサウジアラビアGPで8勝目を挙げたハミルトンが2位。最終戦で1ポイントでも多く取った方がチャンピオンになるというシンプルで分かりやすい構図と相まって、アブダビGPの開幕前から最終決戦に向けてF1界は大いに盛り上がった。

◇そろそろ変化が訪れる

 F1界の住人たちもファンも、そろそろ変化の時を予見していたのではないだろうか。ワールドチャンピオンに2度輝いたフェルナンド・アロンソ(スペイン、アルピーヌ・ルノー)は、最終戦の前に「マックス(フェルスタッペン)が今年のチャンピオンにふさわしい」と言った。

 ハイブリッド形式のパワーユニット(PU)が導入された2014年以降、昨年までドライバーズ、コンストラクターズ(製造者)の両選手権はメルセデスが7年連続2冠。ドライバーズ選手権ではハミルトンの強さが際立ち、優勝回数もPP回数も、今年はついに「100」の大台を超え、サウジアラビアGPでPPは103回、勝利数も103勝に達した。

 PP回数は、歴代1位だったシューマッハーの68回を17年に抜き、優勝回数も昨年、不滅の大記録とみられていたシューマッハーの91勝を超えた。残る主要な数字で歴代単独1位になっていないのは、7回でシューマッハーと並ぶドライバーズ・タイトルぐらい。新型コロナウイルスでシーズン日程が大幅変更されようが、フェラーリなどのライバルチームが浮き沈みを繰り返そうが、14年以降のF1はメルセデス中心に回り、その他のチームがタイトルを取ることを阻み続けた。そのど真ん中にいたのが、チームのエースを張り続けたハミルトンだ。

 盤石の王者にほころびを生じさせたのが、21年のレッドブル・ホンダだ。両タイトル決定を最終戦に持ち込み、ドライバーズは同点勝負。メルセデスのチーム内でハミルトンとニコ・ロズベルク(ドイツ)がタイトルを争ったこともあるが、やはりライバルチーム間の方が盛り上がるし、興味も湧く。日本のファンにとっては、F1ラストイヤーとなったホンダのタイトルが懸かっているということがあり、早く決着を見たいような見たくないような、サウジアラビアGPからアブダビGPまでの長い1週間だった。

◇本社前に「じゃ、最後、行ってきます」

 アブダビGP決勝の12日朝。東京・南青山のホンダ本社前に、レッドブル・ホンダとアルファタウリ・ホンダのF1マシンが並べられた。マシン後方には、F1ラストランに挑むホンダからのメッセージを掲出。フェラーリやメルセデス、トヨタなどF1でしのぎを削ったライバルチーム名、マクラーレンやウィリアムズといったタッグを組んだチーム名を列記し、「ありがとうフェラーリ」「ありがとうトヨタ」と謝意を記し、「じゃ、最後、行ってきます」と結んでいた。

 ホンダ広報部によると、当初から最終戦決勝日のメッセージ掲出とマシン展示を予定していた。そして決勝翌朝にも、何らかの仕掛けを準備しているとのことだった。果たして願い通り、タイトル獲得なのか。結果次第で仕掛けの内容も変わるかもしれないが、「じゃ、最後、行ってきます」の文言には、決意と一抹の寂しさと、長くF1で戦ってきたメーカーにしか分からない、肩の力が抜けた潔さがにじんでいた。

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