ブラジルと並ぶ南米の雄。国境1本隔てた両国は常に激しく火花を散らしている。面白いのは、隣国同士なのにサッカースタイルが大きく異なることだ。攻撃的に美しく勝つことをたたえるブラジルに対し、アルゼンチンはぶつかり合いも辞さない激しいプレーで対抗する。どちらかと言えば欧州型だ。華麗な技で観衆を楽しませようとする意欲は、隣国のライバルほどではない。
ただ、それでも常に上位候補に名を連ねているのは、各選手の基本的な技術水準が高いからだ。激しいサッカーを前面に押し出す中で、時として傑出したテクニシャンが出現する。そういう名手がチームに存在する時は、周囲の選手たちが激しいプレーで下支えし、「王様」の力を最大限に生かし切る形を整えて世界一の座をうかがう。
世界サッカー史にさん然と名を残した2人の偉大なプレーヤーが誕生した。1950年代を中心に大活躍したディステファノと、80-90年代に世界最高の選手だったマラドーナだ。そして現代の名手メッシが、その足跡を追いかけるように大選手への道を駆け上がっている。
ディステファノはレアル・マドリードの主力としてプスカシュ、ヘントらとともに1956-60年の欧州チャンピオンズカップ(現チャンピオンズリーグ)5連覇に大きく貢献した。攻撃から守備へ、守備から攻撃へと激しく動くスタミナを持った上に、創造的なセンスも抜群。好パスで味方にチャンスボールを供給するとともに、自らもゴールを決めた。ペレ以前の年代で最高の選手だったという評価は揺るぎない。
残念だったのはW杯の出場経験がないこと。アルゼンチン代表で6試合に出た後、コロンビアを経てスペインへ渡った。スペイン代表歴は31試合。ただ、メンバーに名を連ねた62年W杯はけがで出番がなかった。北アイルランドのジョージ・ベストらとともにW杯に出なかったスーパースターの代表格だ。
母国の大先輩ディステファノが果たせなかった夢をつかみ取ったのが60年生まれのマラドーナだった。16歳で代表にデビューし、79年には日本で開催された世界ユースで優勝。W杯には82年大会に初出場し、86年大会で優勝。90年大会も母国を準優勝まで導き、94年大会にも出場。2010年大会は監督として母国を率いた。天才の妙技でファンを驚かせたと思えば、トラブルを引き起こして物議を醸す。強烈な個性を見せつけながらたどった栄光と転落の振幅の激しさが、ファンの関心を一層引き付ける要素になった。
連覇を狙うチームの一員として乗り込んだ82年のスペインでは随所に才能を発揮しながら、ブラジル戦では劣勢の展開にいら立ちを抑え切れず、最後は相手選手をけって退場処分を受けた。雪辱を誓った4年後のメキシコでは、イングランド戦での伝説の5人抜き、ベルギー戦でのスーパーゴールなど、幾多の名場面を残して栄冠に輝いた。
4年前の苦い経験を生かし、時には自らがマークを引き付け、チャンスボールを提供して味方を生かした。一方で、イングランド戦で見せた「神の手」ゴールなど、議論を巻き起こす「スキャンダル」も。ただし、その不正な得点への批判も、3分後に演じた離れ業で封じ込めてしまった印象だ。周囲の選手は、マラドーナの存在を生かし切るための歯車として機能した。
90年のイタリアでも、けが人や出場停止が相次いで満身創痍(そうい)となったチームを、決勝まで連れていった。押しまくられたブラジル戦では、鮮やかなスルーパス一発で相手を沈め、準決勝のイタリア戦では相手の大会初失点となる同点ゴールに絡んでPK戦勝利につなげた。
本来の切れを取り戻して復活を印象づけていた94年の米国では、2戦目の後でドーピングが発覚し、まさかの途中離脱となった。ジェットコースターのような競技人生。マスコミやチームメートとのいざこざも絶えなかった。天才ながら優等生でないところが、ファンに愛されたのは確かである。
小柄な左利きで足技が抜群に切れ、ドリブル突破を得意としてシュートもパスもうまい。メッシとマラドーナの共通点は少なくない。マラドーナが代表チームで演じたように、メッシもバルセロナでチームを何度も栄光へと導いた。今のところ、両者を分けているのはW杯での実績。期待された10年W杯で、メッシは本領を発揮し切れずに無得点。チームも準々決勝でドイツに完敗した。決勝まで進出し、ついに栄冠をつかむかと思われた14年W杯もドイツとの決勝でゴールが奪えず、延長戦の末に涙を飲んだ。
純粋な得点能力ではメッシが他の2人より優位に立っているように見える。一方で、チームの全軍を指揮し、攻撃全体をオーガナイズする力量ではマラドーナ、ディステファノに軍配が上がる。メッシが明らかに2人を上回る評価を獲得するためには、W杯での栄光のドラマが必要となる。18年W杯では辛くも1次リーグを突破したものの、優勝したフランスに決勝トーナメント1回戦で4ゴールを奪われて敗退。「チーム・メッシ」はまたも機能し切れなかった。
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