断っておくが、筆者にとって山本さんは尊敬するアナウンサーの一人。この方はただ実況をするだけでなく、「記者的な視点」を強く持っておられたのが大きな特長で、試合の位置づけ、そのプレーの意味するところなどをしっかり踏まえた上で試合を伝えるところに、並のアナウンサーが真似できない持ち味があった。
ただ、ようやくドイツびいきの解説者が少なくなってきたところで、山本アナウンサーの登場である。山本さんの実況がドイツびいきだったかと言えば、決してそうではないだろう。ご本人もその点は強く留意されていたはずで、筆者は山本さんがドイツのサッカーを好きだったかどうかも確かめてはいない。ただ、ドイツ語が堪能なだけに、当然ドイツの取材に熱心だったのは間違いない。
悪いこと?に、山本さんがメーン担当としてW杯の実況をしていた時期は、ドイツがさして面白くないプレーをしながら、より良質で楽しいサッカーをするチームを駆逐し、上位に入り続けた時期と重なった。メーンアナウンサーは決勝など重要なカードを担当することが多いから、必然的に山本さんの実況でドイツ戦を見ることが多くなった。
こちらには、山本=ドイツという先入観が出来上がっていたこともあり、PK戦で当たり前のように勝ち上がるドイツの試合を山本さんの実況で見せられるのはたまらなかった。山本さんは試合前日などに取材したドイツ代表の様子などを実況の間に差し挟む。筆者も経験があるのだが、外国語の肉声をそのまま理解できる場合は、当人にとってその情報の価値が一段も二段も上がってしまうのだ。山本さんが公平を期して実況に当たっていたことに疑問の余地はないが、ドイツのエピソードや情報に、より力が入っていたこともまた間違いない。
ドイツが誰の目にもその大会のベストチームだと思えるようなプレーを展開し、上位へと勝ち上がっていたのなら、それほど気にならなかったに違いない。しかし、より魅力的なチームが連戦の疲れや焦り、運のなさもあって「凡庸だが屈強な」ドイツの前に次々に沈む。思い描いた「夢の対決」の実現を何度もドイツに阻まれ、長年の不満がうっ積していた筆者にとって、ドイツの勝利を伝える山本さんの放送が、どうしても「ドヤ顔」ならぬ「ドヤ放送」に聞こえてしまったのだ。もちろん、それは山本さんにとって、偏見に満ちた言いがかりにすぎないのではあるが。
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