16年ぶりの王座奪還を果たした西ドイツがこの大会の優勝を狙えるチームの一つだったことは間違いない。ただ、決勝戦がすっきりしない戦いだったことを含め、運に後押ししてもらったことも間違いあるまい。
決勝の相手が相性の悪い開催国イタリアだったら、苦しい戦いになっていただろう。ジュゼッペ・ベルゴミ、フランコ・バレージ、リッカルド・フェリ、パオロ・マルディーニで組むイタリアの守備ラインは、史上屈指の安定感を誇るカルテット。前線にもロベルト・バッジオと、この大会で得点王になるサルバトーレ・スキラッチがいた。ただ、アルゼンチンとの準決勝で前半17分に先制すると、守りに入る悪癖が出た。どん欲に2点目、3点目を狙う気持ちで臨んでいたら、2-0、3-1といったスコアで快勝していたのではないか。「自国開催で確実に決勝進出を」という慎重さがあだとなり、自滅につながった。
一方、準決勝で西ドイツの相手がカメルーンになっていたら、この大会でアフリカの王者が誕生していた可能性もあると筆者は考えている。カメルーンは決勝トーナメント1回戦でコロンビアを破り、上げ潮ムード。ベテランFWロジェ・ミラをスーパーサブとして試合途中から投入する策も当たり、準々決勝のイングランド戦も後半からは完全に優位に立っていた。実はこの試合、カメルーンはMFムブー、カナ・ビイクらのキープレーヤーを出場停止で欠いていた。珍しく勝負強さを見せたイングランドが後半38分からの逆転で辛うじてうっちゃったが、カメルーンがフルメンバーなら突き放されていたかもしれない。
西ドイツは82年大会でアルジェリアに敗れたほか、70年大会ではモロッコに2-1で逆転勝ち、78年大会ではチュニジアと0-0で引き分けるなど、意外にもアフリカ勢に苦戦する傾向があった。手堅いプレーを好む北アフリカと身体能力の高さを生かすブラックアフリカでは戦い方が違うとはいえ、攻めの迫力や前に出る力はブラックアフリカ勢が上。イングランドを破って4強に進んでいたら浮かれて脇の甘さを露呈していた可能性はあるが、勢いを増したカメルーンは西ドイツにとって相当怖い相手になっていたのは間違いあるまい。
結果から見て、この大会では西ドイツ、イタリア、イングランド、カメルーンが優勝の可能性のあるチームだった。アルゼンチンはチーム力が少し落ち、ユーゴ、チェコ、ベルギーなどと同レベル。マラドーナという名手の存在が、決勝まで押し上げた。ブラジルとオランダは豊富な戦力がうまくかみ合っていなかった。その中で西ドイツが頂点に立てた要因としては、戦力やプレーの質はもちろん、「4強」の中で最も運に恵まれたからだと筆者は考えている。
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