西ドイツは決勝でアルゼンチンを1-0で破り、3度目の頂点に立った。この一戦はW杯決勝とは思えないほどの凡戦だった。この大会のアルゼンチンは開幕戦でカメルーンによもやの敗戦を喫し、1次リーグB組を何とか3位で通過する低調な戦いぶり。ただ、マラドーナからFWクラウディオ・カニーヒアへのパスだけは1本で相手の急所を射抜く威力を発揮。決勝トーナメント1回戦ではブラジルに押しまくられながら、終盤にマラドーナからカニーヒアへのスルーパスが通って1-0で勝利。ユーゴスラビアとの準々決勝でも劣勢の展開を辛うじて持ちこたえ、0-0の末のPK戦を制した。イタリアとの準決勝でもカニーヒアのゴールで追いついた後、相手の攻めをしのいでPK戦勝利につなげた。準決勝までの6試合で5得点、3失点。なかなかゴールが奪えない上に、決勝では決定的な仕事ができるカニーヒアをはじめ、オラルティコエチェア、ジュスティらが出場停止となり、さらに苦しい布陣となった。
ところが、大会後半になって勢いの落ちてきた西ドイツはこのアルゼンチンを攻め切れない。プレーはピッチのほぼ半面で展開されているにもかかわらず、相手ゴールに近いところで決定的なプレーが出ないのだ。この大会、筆者は全額自腹で取材していた。本来はハイライトとなる一戦で自費取材の元を取ろうと必死に目を凝らすのが普通だろう。それが、あまりの退屈な決勝戦の展開に、試合中に何度かあくびをしてしまった。落語の「あくび指南」なら、師匠に褒められたかもしれない。
日本に帰ってビデオを見てみると、テレビ中継の特別ゲストに招かれた王貞治さんが「これを野球に例えると?」と何度も問われ、言葉に窮していた。息つく暇のない熱戦なら、実況アナウンサー氏も王さんに話を振る余地はなかなかなかったはずだ。
西ドイツは後半20分にアルゼンチンに退場者が出て人数で優位に立っても、なかなか決定的な形がつくれなかった。後半40分、微妙な判定で得たPKをブレーメが決めてようやくゴール。主審の判断にも助けられる形で、やっと勝利を決めた。アルゼンチンはこのPK判定に怒りが収まらず、連覇を逃したマラドーナは悔し涙。さらに退場者を出し、9人で決勝の戦いを終えた。すっきりしない、後味の悪いフィナーレだった。
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