だからサッカー・ドイツ代表が嫌いだった~最強チームへの敬意を込めて

マラドーナには通じず

 アルゼンチンとの決勝で、ベッケンバウアー監督はマラドーナをマテウスにマークさせる策に出る。準々決勝、準決勝で2ゴールずつ挙げていたマラドーナを無得点に封じたのだから、効果があったと言えばあった。しかし、マラドーナはその上を行く。自らにマークを引き付け、この試合ではチャンスメーカーに徹して他の選手を生かすことに転じた。2-2で迎えた後半38分、マラドーナの鮮やかなスルーパスで抜けだしたホルヘ・ブルチャガが流し込み、アルゼンチンが3-2で勝って2度目の優勝を遂げた。

 数少ない攻撃力のある選手であるマテウスがマラドーナのマークで守備に力を入れたため、西ドイツには攻め手が乏しかった。それでも0-2から追いついてファンを驚かせたのは、どんな状況でも諦めないドイツを象徴するようでさすがだった。ドイツ以外であの試合展開なら、0-2や0-3で完敗していたかもしれない。

 とはいえ、奪った2ゴールはいずれもCKからのサインプレーのようなもので、流れの中のプレーには世界の王座を獲得するにふさわしいものはなかった。結果的にマラドーナという王様がその地位を不動のものとし、86年W杯は「マラドーナのマラドーナによるマラドーナの大会」としてサッカー史に刻まれることになった。プラティニとの決勝対決は実現しなかったが、万人が納得する鮮やかなフィナーレとなった。

 もし、西ドイツが決勝に勝っていたら、大会はどんなキャッチフレーズで語られることになったのだろう。喜ぶのは、おそらくドイツ国民とドイツのファンだけ。「諦めないドイツがプラティニのフランス、マラドーナのアルゼンチンを連破して優勝。質的にはあまり見るべきものがなかったが、大会大詰めで体力と精神力を生かして難敵を打ち破ったのは大したものである」とでも総括するしかなかったのだろうか。そうならなくて本当によかった。筆者はアステカ競技場の記者席で胸をなで下ろしていた。

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