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だからサッカー・ドイツ代表が嫌いだった~最強チームへの敬意を込めて

「芸術」を駆逐

 準決勝のフランスはブラジル戦に比べると集中力を欠いていたように見えた。戦況を苦しくしたのが前半9分の早い失点だ。GKジョエル・バツの拙守。ブレーメが放ったFKを、体の下に通してしまった。早い失点はブラジル戦(前半17分)同様。ただ、しっかりボールをつなぎ、自らの持ち味を生かしながらじっくりと反撃に出たブラジル戦に比べ、気が急いていた感じ。4年前、薄汚いラフプレーを仕掛けていた相手に決勝進出を阻まれ、「今度こそ」という雪辱の思いが強すぎたのか。体が疲れているのに、気持ちが先走る状況。なかなか本来の組み立てができず、後半の途中からは焦ったプラティニが前線に出てしまい、最大の強みである中盤のパスがうまく回らなくなった。

 何度かあったチャンスをなかなかものにできず、最後は総攻撃を仕掛けた裏をカウンターで突かれ、フェラーに追加点を許した。西ドイツは守りを重視した布陣。強豪国の中ではいかにも凡庸なフェリックス・マガト、まだ若かったマテウスが中盤の中心という無骨なチームが、プラティニ、ティガナ、ジレス、ルイ・フェルナンデスという中盤を誇った芸術家ぞろいのフランスを、再び準決勝で打ち破ってしまった。

 「ああ、無情」。4年前の羽佐間アナウンサーの実況を反すうしながら、筆者はハリスコ・スタジアムの記者席でぼう然としていた。ブラジルとあの美しい死闘を繰り広げたフランスも、しょせんドイツの露払いを務める役回りに甘んじてしまったのか。多くのファンが待ち望んでいた「マラドーナとプラティニの決勝対決」も夢と消えた。サッカーに娯楽性を求める観戦者の一人として、何ともやるせない思いが胸に広がった。

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